相続財産の総額を確定できなかったことが無申告加算税の正当な理由に当たらないとした事例(令和3年2月4日相続開始に係る相続税の無申告加算税の賦課決定処分・棄却)
- 令和7年1月17日裁決
- 裁決事例集 第138集
ポイント
本事例は、相続税において通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、通常の納税者を基準として、課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えない又は超える可能性が極めて小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出しなかった事実が認められる場合をいうとしたものである。
要旨
請求人は、贈与者である被相続人(本件被相続人)から金員(本件金員)の死因贈与を受けただけであり、本件被相続人の法定相続人ではないことから、相続財産の総額を知ることはできず、本件被相続人の相続人ら(本件相続人ら)から相続財産の総額の回答を拒否されており、相当の努力を払って調査しても遺産に係る基礎控除額を超える額の相続財産を把握することができなかったのであるから、請求人が法定申告期限までに本件被相続人に係る相続税の申告書(本件申告書)を提出しなかったことに、国税通則法(令和4年法律第4号による改正前のもの)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある旨主張する。
しかしながら、請求人は、本件被相続人の職業などを踏まえると、本件被相続人には請求人が管理している本件被相続人の預金口座以外にも預貯金や不動産などの財産があったと認識できたと推認される。また、請求人が、上記推認を妨げる、本件相続人らがそれぞれ取得する財産が、本件金員よりも少ない可能性があると認識していたと認めるべき特段の事情は認められず、請求人は、本件被相続人の相続財産に係る課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えると認識できたと認められる。そうすると、通常の納税者を基準として、請求人において、本件被相続人の相続財産に係る課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えない又は超える可能性が極めて小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出しなかったとは認められず、請求人が法定申告期限までに本件申告書を提出しなかったことにつき、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとはいえない。
参照条文等
参考判決・裁決
最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決(判タ1010号233頁) 最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(民集60巻4号1611頁) 大阪高裁平成5年11月19日判決(税資199号順号334) 広島地裁平成2年2月28日判決(税資175号順号943) 神戸地裁平成26年1月28日判決(税資264号順号12398) 東京地裁平成31年2月1日判決(判タ1474号210頁) 平成29年6月15日裁決(裁決事例集№107) 平成26年11月7日裁決(裁決事例集№97)
裁決本文
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁による調査を受けて相続税の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとして、当該賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、本件被相続人は、平成16年頃から、週末をa市g町にある請求人の自宅で過ごすようになり、令和2年12月頃には、日常的に請求人の自宅で過ごすようになった。
請求人から本件相続税についての相談を受けたL税理士は、請求人に対し、相続税の申告手続は被相続人の相続財産の総額が分からないとできない旨の回答をした。
(4) 審査請求に至る経緯
なお、本件相続税における相続税法第15条《遺産に係る基礎控除》第1項に規定する遺産に係る基礎控除額は、4,200万円(3,000万円+600万円×2(法定相続人の数))である。
2 争点
請求人が法定申告期限までに本件相続税の申告書を提出しなかったことにつき、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるか否か。
3 争点についての主張
| 請求人 | 原処分庁 |
|---|---|
|
以下のとおり、請求人が法定申告期限までに本件相続税の申告書を提出しなかったことに正当な理由がある。 請求人は、本件被相続人の法定相続人ではなく、本件被相続人から死因贈与を受けたにすぎない者であるから、本件被相続人の相続財産の総額を知ることはできない。 また、請求人は、本件被相続人の相続財産の総額について調べる方法が分からなかったため、K弁護士を通じて本件相続人らに対し、本件依頼をしたが、本件相続人らは、本件被相続人の相続財産の総額の回答を拒否した。 そのため、請求人が相当の努力を払って調査しても遺産に係る基礎控除額を超える額の相続財産を把握することはできなかった。 |
以下のとおり、請求人が法定申告期限までに本件相続税の申告書を提出しなかったことに正当な理由はない。 通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、法定申告期限内に申告できなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解されるところ、本件相続人らから本件被相続人の相続財産の総額の回答を拒否されたことは、請求人と本件相続人らの人間関係に起因する事情であり、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があったとは認められない。 |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
このような無申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
しかしながら、納税者として常に法定申告期限内に相続財産の全容を把握することができるとは限らないことから、申告後において相続税額に不足を生じたり過大になったりした場合には、修正申告又は更正の請求をすることができるものとしている(通則法第19条《修正申告》、通則法第23条《更正の請求》、相続税法第31条《修正申告の特則》、同法第32条《更正の請求の特則》)のであって、相続財産の全容が判明しない場合に、その理由がいかなるものであったとしても申告書の提出義務を免除したり猶予したりする規定は存在しない。
(2) 認定事実
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、別表の順号3から6までの金員は、Fが本件被相続人の指示を受け、M信用金庫○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座から本件預金口座に振り込んだものであった。
なお、請求人は、Fが本件被相続人の指示を受け、本件被相続人の金員を取り扱っていたことを把握していたものの、Fは、上記1の(3)のロの(ホ)の訴訟において本件相続人ら側に立ってしまったため、請求人がFに接触することはできなかった。
(3) 検討
請求人は、上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、本件相続人らからの本件金員の返還を求める内容証明郵便により、本件被相続人の法定相続人は本件相続人ら2名であることを把握していたのであり、同ハの(イ)のとおり、本件相続税についてL税理士に相談していたのであるから、本件相続税の遺産に係る基礎控除額は、上記1の(4)のイのとおり、4,200万円であることを容易に把握することができた。これを前提に、請求人において、課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えない又は超える可能性が極めて小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識していたかどうかについて検討する。
上記イ及びロを併せ考慮すると、通常の納税者を基準として、請求人において、本件被相続人の相続財産に係る課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えない又は超える可能性が極めて小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出しなかったとは認められない。
したがって、請求人が法定申告期限までに本件申告書を提出しなかったことにつき、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとはいえない。
(4) 請求人の主張について
しかしながら、これらの事情は、請求人と本件相続人らあるいはFとの間の人間関係に起因する主観的な事情であって、真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情とはいえない上、請求人は、上記(3)のロの(ハ)のとおり、本件被相続人が本件金員のほか、相続人一人当たり、本件金員の金額と同額かそれ以上の財産を有していた(本件被相続人の相続財産に係る課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超える)と認識できていたのであるから、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(5) 本件賦課決定処分の適法性について
上記(3)のとおり、請求人が法定申告期限までに本件申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
これに基づき、当審判所において請求人の無申告加算税の額を計算すると、本件賦課決定処分の額と同額となる。
また、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件賦課決定処分は適法である。
(6) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表 本件被相続人から振り込まれた金員(省略)
『税務法規集』では、裁決事例・裁決要旨や関連する法令等を見やすく閲覧できます。
税務法規集で関連する裁決・法令等を確認する