国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する利益が現に存する限度の額につき、金錢債権の評価に当たっては、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情を踏まえて算定するのが相当であるところ、本件債務者には本件求償債権の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったと認められる等の理由から、その価額は零円と評価するのが相当とした事例(第二次納税義務の納付告知処分・全部取消し)
- 令和7年10月1日裁決
- 裁決事例集 第141集
ポイント
本事例は、国税徴収法第39条に規定する利益が現に存する限度の額につき、求償債権に係る債務免除がされた時において予想される回収可能額によって評価することが相当であり、本件債務者には本件求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったと認めた結果、本件債務免除により受けた利益の額は現に存しないとしたものである。
要旨
原処分庁は、債権者(本件債権者)から金銭を借り受けた債務者(本件債務者)の債務(本件債務)の連帯保証人であった本来の納税義務者(滞納者)が、自己所有土地を競売による売却手続によって売却されたことにより、滞納者が本件債務者に対する求償債権(本件求償債権)を取得し、その後、滞納者が本件債務者に対し本件求償債権を免除した(本件債務免除)という事実関係において(その後、請求人が本件債務者を吸収合併した。)、本件債務免除時に、本件債権者が滞納者に対し、本件求償債権を放棄するよう求めていた事情は存せず、本件求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったとは認められないことから、請求人が本件債務免除により受けた利益が現に存する限度の額は本件求償債権の額面上の金額と同額となる旨主張する。
しかしながら、金銭債権の評価に当たっては、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情を踏まえて算定するのが相当であるところ、本件債務者は、本件債務免除当時、法的整理(再生手続、破産手続等)の開始決定や事業の休廃業等の事実はなかったものの、本件債務の弁済を差し置いて、本件債務者が保有する資産を換価するなどした上で、本件求償債権に対する弁済を行うことは、事実上不可能ないし著しく困難であったと認められる。そうすると、本件債務者には本件求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったと認められ、その支払能力等を考慮すると、本件債務免除時における本件求償債権の価額は零円と評価するのが相当であるから、本件債務者(本件債務者を吸収合併した請求人)が本件債務免除により受けた利益の額は現に存しない。
参照条文等
国税徴収法第39条 国税徴収法基本通達第39条関係14
参考判決・裁決
平成30年6月7日裁決(裁決事例集No.111) 東京高裁令和3年12月9日判決(裁判所Web)
裁決本文
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、L社が納税者Kから債務免除を受けていたところ、その後、審査請求人(以下「請求人」という。)がL社を吸収合併したことにより納付義務を承継したとして、原処分庁が、当該納税者の死亡後に、請求人に対し、国税徴収法に基づく第二次納税義務の納付告知処分をしたのに対して、請求人が、当該債務免除により受けた利益が現に存する限度の額は零円であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
請求人は、土地及び建物の調査、鑑定等を目的として設立された法人であり、平成30年2月○日に、M社から現在の商号に変更した。
Q社は、芝の販売等を目的として設立された法人である。
また、N社は、別表1-1の番号4のとおり、平成10年12月、R社から855,000,000円を借り入れた。
その結果、L社は、別表1-2の番号1ないし4の各債務に係る元本並びに未収損害金及び利息(以下「本件債務」という。)の全てについて、主たる債務者として本件債権者に対して弁済を履行する責任を負うに至った。
そして、○年○月○日、本件競売による売却代金のうち○○○○円が本件債権者に配当され、その結果、本件亡滞納者は、L社に対して、同額の求償債権(以下「本件求償債権」という。)を取得した。
その結果、請求人は、L社に対し、同額の求償債権を取得した。
そして、本件債権者は、平成27年3月27日、別表1-3の番号1ないし3に係る各債権を代金100,000円で、同表の番号4に係る債権を代金100,000円で、それぞれQ社に譲渡した(以下、これら譲渡を「本件債権譲渡」という。)。
(4) 審査請求に至る経緯
本件亡滞納者については、相続人のあることが明らかでなかったことから、民法第951条《相続財産法人の成立》の規定により相続財産法人(以下「本件相続財産法人」という。)が成立し、本件滞納国税の納付義務は、国税通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項の規定に基づき、本件相続財産法人に承継された。
2 争点
L社が、本件債務免除により受けた利益が現に存する限度の額はいくらか。
3 争点についての主張
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
| L社が本件債務免除により受けた利益が現に存する限度の額は、以下の理由により○○○○円である。 | L社が本件債務免除により受けた利益が現に存する限度の額は、以下の理由により零円である。 |
| (1) 本件通達が定める債務が免除された時における債権の価額は、当該債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると認められるような特別な事情がない限り、その債権は回収可能性があるものとしてその額面で判断すべきである。 そして、上記特別な事情には、債務者企業が債権放棄等の金融支援の要請を含む再生計画案を金融債権者に提案する場合に、経営者責任や衡平性の観点から、経営困難な状況に陥ったことに責任のある経営者が、債務者企業に対して有する求償権等の権利を行使せず放棄することが求められ、債権放棄がなされなければ、債務者企業が早晩支払不能となり、更生手続、再生手続、特別清算及び破産手続(以下、これらの法的な債務整理手続を「法的整理」という。)に移行せざるを得なかったといった事情が含まれる。 |
(1) 本件通達は、滞納者から受けた利益が債務の免除である場合、債務者の支払能力、弁済期等を考慮し、その債権を換価する場合と同様に、その債務が免除された時におけるその債権の価額を算定し、その額が受けた利益の額に当たる旨定めている。 |
| (2) 本件では、本件債務免除時において、本件債権者が本件亡滞納者に対して本件求償債権を放棄するよう求めていた事情は存せず、また、L社が本件債権者に対して金融支援の要請を含む再生計画案を提案していた事情も存しないのであるから、L社には、本件債務免除がなされなければ、早晩支払不能となり、法的整理に移行せざるを得なかったといった事情は認められず、ほかに控除すべき価額もない。 | (2) 本件では、①L社が本件ビルを売却して本件債務の弁済に充てたこと、②L社の取締役であった本件亡滞納者が本件競売による配当を本件債務の弁済に充てた上で、本件債務免除を行って一定の経営責任を果たしたこと、③請求人がU社からの借入金等を原資として約3億1,800万円を本件債務の弁済に充てたことを踏まえて、本件債権者は、Q社に対して本件債権譲渡を行い、未収損害金等の残額約3億1,000万円の回収を断念した。 上記各経緯からすると、本件亡滞納者が本件債務免除をしなければ、本件債権者の協力が得られず、早晩法的整理に移行せざるを得なかったと認められる。また、仮に、本件亡滞納者が本件債務免除をせずに、L社から本件求償債権の回収を行おうとすれば、本件債権者がL社の破産申立等を行って当該回収を阻止したものと認められる。したがって、本件求償債権の価額は、L社が破産した場合に予想される回収額(清算価値)によって認定するしかない。 |
| (3) したがって、L社が本件債務免除により受けた利益の額は、○○○○円となり、利益が現に存する限度の額も同額となる。 | (3) L社は、平成25年当時、本件債権者に対して20億円を超える債務を負っており、債務超過に陥って自力による事業継続が困難な状況にあった。 また、本件債務免除時におけるL社の資産・負債等の状況によれば、本件求償債権については、回収可能性がないことは明らかであり、本件求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると認められるような特別な事情が認められる。 |
| (4) 以上によれば、L社が破産した場合に予想される回収額(清算価値)が零円を超えることはないことから、本件求償債権の価額も同様に、零円を超えるとは認められない。したがって、L社が本件債務免除により受けた利益の額は現に存しない。 | |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
(2) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
L社は、本件債務免除時において、法的整理は開始されておらず、また、事業の廃止又は休業の事実も発生していなかった。
(3) 当てはめ
しかしながら、上記1の(3)のハの(ホ)のとおり、①平成27年3月、請求人がU社からの借入金などを原資として本件債権者に318,521,406円を弁済し、そして、同(ヘ)のとおり、②本件債権譲渡がされているところ、本件債務の債務者であるL社及び別表1-3の番号1及び4の債務について連帯保証人となっていた本件亡滞納者は、上記①の請求人による弁済と上記②の本件債権譲渡により、本件債権者から、債務者及び連帯保証人として責任を追及されることを免れるに至ったと認められる。
この状況を踏まえると、L社及び本件亡滞納者は、本件債務の弁済を優先する必要があるものと考えていたと認められ、本件債務免除時において、L社の保有する資産(流動資産及び固定資産)を換価するなどした上で、本件債務の弁済を差し置いて、本件求償債権に対する弁済を行うことは、事実上不可能ないし著しく困難であったと認められる。
なお、上記(2)のロの(ニ)のFのとおり、V社、X及びYに対する短期貸付金等は、平成26年9月期から平成29年9月期までの各事業年度において期末残高が同一であり、増減等の異動が認められないことからすると、L社の帳簿等には計上されているものの、その回収が著しく困難であったと認めるのが相当である。
以上のとおり、上記イ及びロの各事情が認められる本件については、本件債務免除時において、本件求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったと認めるのが相当である。そして、当該各事情の下におけるL社の支払能力等を考慮すると、本件債務免除時における本件求償債権の価額は、零円と評価するのが相当である。
したがって、L社が本件債務免除によって受けた利益の額は現に存せず、零円であると認められる。
(4) 原処分庁の主張について
(5) 本件納付告知処分の適法性について
以上のとおり、本件では、L社が本件亡滞納者から本件債務免除を受けた事実については認められるものの、上記(3)のハのとおり、L社が本件債務免除により受けた利益の額は現に存しないと認められることから、L社から納付義務を承継した請求人が第二次納税義務者として納付すべき限度の額が○○○○円であるとして行われた本件納付告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
(6) 結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。
別表1-1 原債権の内容(省略)
別表1-2 本件債権者とL社らとの間で締結された債務承認及び弁済契約(平成19年3月30日時点)(省略)
別表1-3 本件債権者からQ社に対する債権譲渡(省略)
別表2 本件土地の表示(省略)
別表3 本件ビルの表示(省略)
別表4 本件滞納国税(令和3年9月○日及び令和6年2月20日現在)(省略)
別表5-1 L社の平成24年9月期から平成29年9月期までの各事業年度における売上高等の状況(省略)
別表5-2 L社の平成24年9月期から平成29年9月期までの各事業年度における純資産の期末残高等の状況(省略)
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