特定贈与者である被相続人(本件被相続人)より先に死亡した同人の長女(本件長女)の配偶者について、失踪宣告を受けた事実はないこと等から、当該配偶者は、本件長女の有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件長女が特定贈与者から贈与により取得した相続時精算課税の適用財産の価額は相続税の課税価格に加算されることとなると判断した事例(令和2年5月相続開始に係る相続税の更正処分・棄却)
- 令和6年10月7日裁決
- 裁決事例集 第137集
ポイント
本事例は、本件長女の配偶者は、失踪宣告を受けた事実はないことから、本件長女及び本件被相続人の相続開始日において生存していたことが推定され、また、本件長女の除籍謄本には離婚の事実の記載がないことから、本件長女の配偶者は本件長女の相続開始日において同人の相続人に該当することとなり、本件長女の有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継するとしたものである。
要旨
請求人は、相続税法第21条の9《相続時精算課税の選択》に規定する特定贈与者である本件被相続人より先に死亡した同人の長女(本件長女)の配偶者について、①生存し、本件長女の相続人であることを原処分庁は立証しておらず、②不在者財産管理人の選任に係る審判をしたK家庭裁判所は、本件長女の配偶者が生存している事実を証明したわけではなく、真に相続人であることを判断しているわけではないのであるから、本件長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を本件長女の配偶者は承継せず、相続時精算課税の適用財産(本件贈与財産)の価額は本件被相続人の相続に係る相続税の課税価格に加算されない旨主張する。
しかしながら、民法が不在者の生存を推定してその者の財産管理制度を用意し、他方で生死不明者を死亡したものと確定する失踪宣告制度を用意していることに鑑みると、失踪宣告がなされない限り生存が推定されると解するのが相当であり、本件長女の配偶者が失踪宣告を受けた事実はないことからすると、同人が本件長女及び本件被相続人の相続開始日において生存していたことが推定され、また、本件長女の除籍謄本には離婚の事実の記載がないことから、本件長女の配偶者は本件長女の相続開始日において同人の相続人であったといえる。したがって、本件長女の配偶者は、本件長女の有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件被相続人に係る相続税の課税価格に加算されることとなる。
参照条文等
参考判決・裁決
名古屋地裁平成3年5月29日判決(税資183号837頁)
裁決本文
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税の申告をしたところ、原処分庁が、特定贈与者である被相続人よりも先に死亡した当該被相続人の長女(相続時精算課税適用者)の相続人である当該長女の配偶者は相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継するにもかかわらず、当該長女が相続時精算課税の適用を受けた贈与により取得した財産の価額が当該相続税の課税価格の合計額に算入されていないとして、更正処分をしたのに対し、請求人が、当該長女の配偶者は所在不明であり、原処分庁は当該長女の配偶者が当該長女の相続人であることを立証していないから、当該長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を当該長女の配偶者は承継しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
F(以下「本件被相続人」という。)は令和2年5月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
本件相続に係る相続人は、本件被相続人の養親である請求人のみである。
また、本件長女は、本件被相続人から平成24年中に贈与を受けた財産(本件贈与財産)について、相続税法第21条の9第1項の規定の適用を受けることとした旨記載した相続時精算課税選択届出書を上記の贈与税の申告書に添付して、原処分庁に提出した。
令和2年6月23日付の本件長女に係る除籍の謄本(以下「本件除籍謄本」という。)の身分事項欄には、Hとの婚姻に関する記載はあるが、その他に、Hに関する記載はない。
一方、Hについては、日本国に居住していた事実は確認できず、消息は不明である。
| (A) | 相続財産目録記載の預貯金は、Hの法定相続分相当額金○○○○円を代償金とする。 |
| (B) | 上記Aの預貯金を除く相続財産は、本件遺産分割協議の成立後速やかに売却し、その売却代金から売却に要する一切の費用(債務の弁済を含む。)を控除した残額を法定相続分に従ってあん分し、Hの法定相続分相当額をHへの代償金とする。 |
(4) 審査請求に至る経緯
2 争点
(1) Hは相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算されるか否か(争点1)。
(2) 本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができるか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(Hは相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算されるか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
|
|
(2) 争点2(本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができるか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
|
本件長女相続に係る遺産分割協議書には、「本件被相続人は、前各号の遺産を取得した代償として、将来、Hが出現し、同人から請求があった場合には、同人に対して本件代償金を支払う。」との記載がされており、本件相続開始日以前において本件被相続人がHから本件代償金の請求を受けたとする事情も見当たらないことから、本件代償金に係る債務は、本件被相続人の債務で本件相続開始日において現に存するものとはいえず、確実と認められるものにも該当しない。 したがって、本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することはできない。 |
本件代償金は、令和2年3月23日、K家庭裁判所で遺産分割協議書の内容について認められ、許可される審判により確定しているものであるから、相続税法第13条及び同法第14条の要件を備えており、本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務に該当する。 したがって、本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができる。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(Hは相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算されるか否か。)について
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
相続時精算課税適用者である本件長女は、上記1の(3)のイ及び同ハの(イ)のとおり、本件被相続人が死亡する前に死亡していることから、相続税法第21条の17第1項の規定により、本件長女の相続人がいる場合には、同人が、本件長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、同法第21条の16第1項の規定により、相続時精算課税の適用に係る財産を特定贈与者から相続により取得したとみなされて、本件贈与財産の価額が本件相続税の課税価格に加算されることとなる(なお、本件被相続人は特定贈与者であるから、当該相続時精算課税の適用に伴う権利義務は承継しない(相続税法第21条の17第1項ただし書)。)。
そして、上記1の(3)のハの(ロ)及び(ハ)のとおり、平成4年に本件長女と婚姻したHは、現在その消息が不明であるところ、Hが、本件長女の相続人として本件長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、相続税法第21条の16第1項の規定により相続時精算課税の適用に係る財産を特定贈与者から相続により取得したとみなされるというには、Hが、本件長女の相続人(本件長女相続開始日(平成29年8月○日頃)において、①生存し、また、②本件長女の配偶者であったこと)であり、かつ、③本件相続開始日(令和2年5月○日)に生存していたことを要すると解される。
この点、民法が、生死不明かどうかを問わず、一方で不在者の生存を推定してその者の財産管理制度を用意し(民法第25条ないし第29条《管理人の担保提供及び報酬》)、他方で生死不明者を一定の要件の下で死亡したものと確定する失踪宣告制度を用意していること(民法第30条ないし第32条《失踪の宣告の取消し》)に鑑みると、不在者が生死不明の場合でも、失踪宣告がなされない限り生存が推定されると解するのが相当であり、上記のとおりK家庭裁判所がHについて失踪宣告をした事実が認められないことからすると、Hは、本件相続開始日において生存していたものと推定される。そして、配偶者が死亡した場合には、配偶者の死亡による婚姻の解消が戸籍に記載される(戸籍法施行規則第36条第1項)ことになるところ、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、本件除籍謄本には、Hとの婚姻が解消された旨の記載は見当たらず、その他当審判所の調査によっても、同推定を覆す証拠はない。
以上のことから、Hは本件長女相続開始日及び本件相続開始日において生存していたと認められる。
また、○○○○の方式において離婚が成立した場合のほか、外国に所在する日本人がその国の方式に従って離婚した場合には、3か月以内にその国に駐在する日本の大使等にその証書の謄本を提出しなければならない(戸籍法第41条第1項)こととなっているが、本件除籍謄本に離婚をしたことの記載は見当たらないことからすると、外国の方式に従って本件長女とHの離婚が成立した事実もないと推認するのが相当である。
以上のことからすると、Hは、本件長女相続開始日において、本件長女の配偶者であったと認められる。
したがって、Hは、相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、相続税法第21条の16第1項の規定により相続時精算課税の適用に係る財産を特定贈与者から相続により取得したとみなされることから、本件贈与財産の価額は本件相続税の課税価格に加算される。
請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、①原処分庁はHの㋑正式な氏名(○○○○による氏名)、㋺住所地、㋩婚姻後の生死の有無及び㊁婚姻後の離婚の有無を○○○○に調査し、明確にHが本件長女の相続人であることや生存していたことを立証すべきである旨(同欄イ)、並びに②本件不在者財産管理人の選任に係る審判をしたK家庭裁判所は、本件長女相続開始日においても、本件相続開始日においても、Hが生存又は死亡している事実を証明したわけではなく、不在者が真に相続人であるかどうかを判断しているわけではないから、Hが本件長女の相続人であることや生存していたことが立証されたとはいえない旨(同欄ロ)主張する。
しかしながら、失踪宣告がなされていないHについて、生存が推定されることは上記ロの(ロ)のAのとおりであるし、仮にこの点を措くとしても、Hが、○年○月○日生まれであり(上記1の(3)のハの(ロ))、本件長女相続開始日において満○歳であって、本件相続開始日においても満○歳であることを鑑みると、一般的に死亡している蓋然性は低く、Hは不在者であり日本に居住していた事実は認められないものの、当審判所の調査の結果によっても、個別具体的な死亡の原因となるような危難に遭遇した事実も認められないこと、その他死亡を合理的に疑われる状況も認められないことに照らせば、これらの時点において、Hが生存していたものと推認するのが相当である。
また、Hが、本件長女相続開始日において、本件長女の配偶者であったと認められることは、上記ロの(ロ)のBのとおりであり、Hの生存や離婚等について、請求人の主張する○○○○における調査が、通常必要とされる調査であるとまでは認められず、原処分庁が上記①の㋑ないし㋥の事項を明らかにできていないことは、同ロの(ロ)の判断を左右するものではない。
よって、請求人の主張には理由がない。
(2) 争点2(本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができるか否か。)について
相続税法第13条第1項柱書及び同項第1号並びに同法第14条第1項は、相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から控除する債務は、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもののうち、相続人の負担に属する部分の金額とし、その控除すべき債務は「確実と認められる」ものに限る旨規定している。
そして、「確実と認められる」債務といい得るためには、相続開始の時点までに、当該債務が成立し、かつ、当該債務に基づき具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していることが必要であり、停止条件付債務については、特段の事情のない限り、相続開始の時点までに当該条件が成就していることが必要であると解すべきである。
しかしながら、Hについては当審判所の調査の結果によっても、本件相続開始日までに出現し、不在者ではなくなった事実は認められないし、Hから本件被相続人に対して本件代償金の請求があった事実も認められない。
したがって、本件代償金に係る債務の停止条件(Hが出現し、同人から請求があったこと)は成就していなかったものと認めるのが相当であり、上記特段の事情も見当たらないから、当該債務は、本件相続開始日において、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められる」ものに該当しない。
請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件代償金は、令和2年3月23日、K家庭裁判所で遺産分割協議書の内容について認められ、許可される審判により確定しているものであるから、相続税法第13条及び同法第14条の要件を備えており、本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務に該当する旨主張する。
しかしながら、K家庭裁判所が本件遺産分割協議を相当であると認める審判をしたとしても、上記イのとおり、停止条件付債務については、特段の事情のない限り、相続開始の時点までに当該条件が成就していることが必要である。
本件の場合、Hが出現し、Hから請求があった場合には本件代償金を支払うとした停止条件が成就していないのであるから、相続税法第14条第1項の「確実と認められる」債務とは認められず、本件代償金相当額が本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することができないことは、上記ロの(ロ)で述べたとおりである。
よって、請求人の主張には理由がない。
(3) 本件更正処分の適法性について
上記(1)のロの(ハ)のとおり、Hは、相続時精算課税適用者である本件長女の相続人として相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継するから、本件相続税に係る課税価格の合計額の計算に当たり本件贈与財産の贈与の時の価額を加算し、本件相続税に係る相続税の総額を計算して請求人の納付すべき税額を計算することとなり、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件代償金相当額を、本件相続税の課税価格の計算上、本件相続により取得した財産の価額から控除することはできず、これらに基づき、請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、本件更正処分の各金額と同額であると認められる。
また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件更正処分は適法である。
(4) 結論
よって、請求人の審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表 審査請求に至る経緯(省略)
『税務法規集』では、裁決事例・裁決要旨や関連する法令等を見やすく閲覧できます。
税務法規集で関連する裁決・法令等を確認する