納付すべき国税を一時に納付することにより、生活の維持を困難にするおそれがあったと認められないとした事例(換価の猶予不許可処分・棄却)
- 令和6年10月28日裁決
- 裁決事例集 第137集
ポイント
本事例は、合理性を有する猶予取扱要領の定めに基づき、請求人について納付困難な額が算定されないことから、請求人の国税を一時に納付することにより、その生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められず、換価の猶予の申請を不許可とした処分は適法であるとしたものである。
要旨
請求人は、売上げの減少により納税資金を捻出することが困難であるとして原処分庁に対し行った換価の猶予申請(本件猶予申請)について、原処分庁が、請求人は申請に係る国税を一時に納付することにより生活の維持を困難にするおそれが認められないとして不許可処分を行った(本件不許可処分)ところ、請求人の毎月の収支状況はマイナスであること、資産は資金収支のマイナスを補填するための借入金を原資とするものであることから、本件猶予申請において納付することができる金額の算定に当たっては、納税の猶予等の取扱要領第7章の納付能力調査によらず、相続税の延納と同様に、債務額を財産から控除した純資産で判定すべきである旨、及び事業が好転しなければ今後返済不能となることを考慮して判断すべきである旨主張する。
しかしながら、国税徴収法施行令第53条《換価の猶予の申請手続等》第3項は、国税徴収法第152条《換価の猶予に係る分割納付、通知等》第1項に規定する納付を困難とする金額の算定に当たっては、滞納者が有する現金、預貯金その他換価の容易な財産から生活維持費等を控除した残額を、納付すべき国税の額から控除する旨規定していること、及び本件猶予申請において検討したつなぎ資金では上記納付を困難とする金額は算定されず、請求人には、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められないことから、本件不許可処分を不相当とする理由は認められない。
また、審査請求によって行政処分の取消しを求めるには、当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が存在していることが必要であるところ、請求人が取消しを求めている債権の差押処分(本件差押処分)は、原処分庁が、差し押さえた債権の一部を取り立てるとともに、取立て後の残額に係る差押えを解除したことによって、その効力が消滅しており、請求人には、本件差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益は存在しないから、本件差押処分の取消しを求める本審査請求は不適法なものである。
参照条文等
参考判決・裁決
裁決本文
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁に対し、売上げの減少により納税資金を捻出することが困難であるとして換価の猶予の申請を行ったところ、原処分庁が、請求人は申請に係る国税を一時に納付することができないとは認められないとして不許可処分をし、また、請求人の滞納国税を徴収するため、債権の差押処分をしたのに対し、請求人がこれらを不服として原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令等
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
請求人が本件猶予申請に係る添付資料として提出した「財産収支状況書」等には、請求人の財産及び収支の状況について、別表2の「記載額」欄、別表3及び別表4のとおり記載されていた。
2 本件差押処分の取消しを求める審査請求の適法性について
審査請求によって行政処分の取消しを求めるには、当該処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が存在していることが必要であるから、処分の法的効果が消滅し、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が存在しなくなったときは、当該処分の取消しを求める審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものとなる。
上記1の(3)のトのとおり、原処分庁は、本件差押処分に係る本件債権について、差し押さえた債権の一部を取り立てるとともに残額に係る差押えを解除していることから、本件差押処分は、その目的の完了又は差押えの解除により既にその効力が消滅している。よって、請求人には本件差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益は存在しないから、本件差押処分の取消しを求める審査請求は不適法なものである。
3 争点
請求人は、本件猶予申請において、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったと認められるか否か。
4 争点についての主張
| 請求人 | 原処分庁 | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| 請求人は、本件猶予申請において、次のとおり、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったと認められる。 (1) 請求人の収支状況は、月額○○○○円のマイナスで、資産は、現金及び預貯金○○○○円のみである。同資産は、資金収支のマイナスを補填するための借入金を原資とするもので、請求人は、銀行に対して○○○○円の債務を抱えている。そのため、請求人は、事業が好転しなければ○か月後には返済不能となる。 |
請求人は、本件猶予申請において、次のとおり、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められない。 (1) 徴収法第152条第1項に規定する納付を困難とする金額は、徴収法施行令第53条第3項で、滞納者が個人の場合には、納付すべき国税の金額から、換価の猶予をしようとする日の前日において滞納者が有する現金等から生活維持費等の額の合計額を控除した残額であると定められており、借入金を含む債務は、換価の猶予の適否に係る判断に影響を与えない。 (2) 請求人は、本件猶予申請時において、①合計○○○○円の現金及び預貯金を有し、②本件猶予申請時から1月以内の収支状況は、支出金額が○○○○円、収入金額が○○○○円であり、③生活維持費等に必要となる臨時支出等はなかった。 |
||||
|
(2) 上記に基づき、請求人の本件猶予申請時における純資産を算定すると、財産が○○○○円である一方、債務が○○○○円であるから債務が財産を上回り、マイナスである。 |
(3) 以上の事実に基づき、猶予取扱要領に従って計算すると、以下のとおり、請求人の納付困難な額は算定されない。 イ 当座資金の額 ロ つなぎ資金の額
ハ 現在納付可能資金額(イ-ロ)○○○○円 ニ 本件猶予申請に係る国税の額○○○○円及び未確定延滞税 ホ 納付困難な額(ニ-ハ) |
||||
|
(3) よって、請求人が本件猶予申請時において金銭納付することができる金額はない。 |
(4) 仮に、個人のつなぎ資金を1年分として計算しても、請求人の納付困難な額は算定されない。 |
5 当審判所の判断
(1) 法令解釈
この点、上記1の(2)のニないしルに記載の猶予取扱要領の各定めは、いずれも、徴収法第151条の2及び第152条の規定に基づき、税務署長が換価の猶予をする場合に、その猶予に係る金額、すなわち、納付を困難とする金額を算定するために委任された徴収法施行令第53条の規定に沿うものであるから、合理性を有するものであると認められ、当審判所においてもその取扱いは相当であると認められる。
(2) 認定事実等
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
上記1の(3)のロのとおり、請求人は令和5年4月7日に本件猶予申請を行っていることから、同(2)のヘの定めによれば、本件猶予申請に係る始期は同日であり、同チの定めによれば、本件猶予申請に係る調査日は同月6日であったと認められる(以下、本件猶予申請に係る調査日を「本件調査日」という。)。
本件調査日現在における請求人の現金及び預貯金の額の合計は、別表2の「審判所認定額」欄の「合計」欄のとおり、○○○○円であった。
請求人の事業に係る売上げは、現金によるものと振込みによるものがあり、現金によるものについては、訪問した当日に集金し、振込みによるものについては、毎月20日又は月末に各老人介護施設から請求人名義の預金口座へ振り込まれる。請求人の事業及び生活費の支出については、特に月の一定の時期に偏ることなく、毎月、月初から月末のうちに支払が行われている。
本件猶予申請に際し、請求人が原処分庁に提出した平均的な収入及び支出の毎月の見込金額は、別表3のとおり、収入が○○○○円、支出が○○○○円であり、当該支出は事業支出及び生活費の合計額であるところ、当該収支に原処分庁と請求人の間に争いはなく、毎月の収支として特段不自然な点は認められないから、請求人の毎月の収入見込金額は○○○○円、支出見込金額は○○○○円であると認められる。
請求人は、上記(ロ)の毎月の支出以外に生活維持費等として必要となる支出に関する主張や証拠資料の提出をせず、当審判所の調査及び審理の結果によっても、そのような支出をうかがわせる事情は認められない。
本件調査日現在における本件猶予申請に係る国税の額の合計(未確定延滞税を含む。)は、別表1のとおり、○○○○円であった。
(3) 検討
上記(1)のハのとおり、猶予取扱要領の定めが合理性を有し、特段の事情がない限り、当該定めに従った判断は相当であるというべきであるところ、猶予取扱要領は、納付困難な額を限度として猶予ができる旨定めているから、以下、猶予取扱要領65の定めに基づき、換価の猶予の申請に係る国税の額から、現在納付可能資金額を控除した納付困難な額が算定されるか否かを検討する。
当座資金の額は、上記1の(2)のリのとおり、調査日現在における現金、預貯金その他換価の容易な財産であって、直ちに支払に充てることのできる資金の合計額であるところ、上記(2)のロのとおり、本件調査日現在における請求人の現金及び預貯金の額は計○○○○円であったことが認められるから、当座資金の額は同額となる。
つなぎ資金の額は、上記1の(2)のヌの(イ)のとおり、納税者が個人の場合には計算期間における生活維持費等の額であり、また、上記(2)のハの(イ)の事実を前提とすると、原則として、請求人の収入及び支出は1月単位で入金又は支払がされているものと認められ、計算期間は1月とすることが相当である。
つなぎ資金の算定に当たっては、上記1の(2)のヌのとおり、まず、計算期間における納税者の事業の継続のために必要不可欠な支出の額から計算期間における事業収入その他の収入に係る金額を控除した残額及び計算期間の生活費として通常必要と認められる金額を算定するところ、上記(2)のハの(ロ)のとおり、請求人の毎月の収入見込額は○○○○円、支出見込額は○○○○円であるから、つなぎ資金の額は○○○○円となる。
そして、上記(2)のハの(ハ)のとおり、請求人には、1月の平均的な支出の見込金額以外に生活維持費等として支出が必要であることをうかがわせる事情は認められないことからすると、所要資金は算定されないから、本件調査日現在におけるつなぎ資金の額は○○○○円となる。
以上のことを踏まえ、本件猶予申請について納付困難な額を算定すると、次のとおりである。
○○○○円
○○○○円
○○○○円
○○○○円
0円
なお、仮に、上記(2)のハの(ロ)のとおり、請求人の収支がマイナスであることをもって、上記ロにおいて算定された○○○○円に、所要資金の額として更に当該金額の2月分の○○○○円を加算して、つなぎ資金を○○○○円とした場合であっても、納付困難な額は算定されない。
以上によれば、本件猶予申請においては、納付困難な額が算定されない。また、当審判所に提出された証拠資料等によっても、請求人につき、猶予取扱要領の定める基準を適用することが不合理であるといえる事情もない。したがって、徴収法第151条の2第1項に規定する国税を一時に納付することによりその事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められない。
なお、請求人は、上記4の「請求人」欄の(1)のとおり、要旨、請求人の毎月の収支等に鑑みると、本件猶予申請における金銭納付することができる金額の算定に当たっては、猶予取扱要領第7章の納付能力調査によらず、相続税の延納と同様に、債務額を財産から控除し、純資産で判定すべきである旨主張する。
しかしながら、上記1の(2)のハのとおり、国税徴収法施行令第53条第3項は、国税徴収法第152条第1項に規定する納付を困難とする金額の算定に当たっては、滞納者が有する現金、預貯金その他換価の容易な財産から生活維持費等を控除した残額を、納付すべき国税の額から控除する旨規定しているから、金銭納付が困難であるか否かについて、債務額を財産から控除した純資産で判定すべきとの請求人の主張は採用できず、また、本件猶予申請に猶予取扱要領を適用することが不合理であるという特段の事情も認められないことは上記のとおりである。
また、請求人は、上記4の「請求人」欄の(1)のとおり、収支は毎月○○○○円のマイナスであり、事業が好転しなければ○か月後には返済不能となることを考慮して判断すべきである旨主張する。
しかしながら、本件猶予申請において、つなぎ資金として相当と認められる金額は上記ロのとおりであり、仮に、当該金額の3月分をつなぎ資金としても納付困難な額が算定されないことは、上記ハのとおりであるところ、更に猶予申請が認められ得る最大の期間である1年分で計算した場合、つなぎ資金は○○○○円となるが、その場合であっても納付困難な額は算定されないのであるから、請求人が主張する事情は、上記判断を左右するものではない。
(4) 原処分の適法性について
上記(3)のとおり、本件不許可処分は、猶予取扱要領に従って判断されており、それが不合理であるという特段の事情は認められないから、その判断は相当である。また、本件不許可処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。 したがって、本件不許可処分は適法である。
(5) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件国税の明細(省略)
別表2 現金及び預貯金(省略)
別表3 今後の平均的な収入及び支出の見込金額(月額)の要旨(省略)
別表4 借入金(省略)
別表5 本件債権の明細(省略)
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