請求人に重加算税の賦課要件を満たす行為があったとは認められないとした事例(①平成28年分及び平成29年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分、②平成30年分から令和3年分までの所得税及び復興特別所得税に係る重加算税の各賦課決定処分、③平成30年分から令和3年分までの所得税及び復興特別所得税の各更正処分、④令和元年分の所得税及び復興特別所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分、⑤令和4年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分並びに無申告加算税の賦課決定処分、⑥平成31年1月1日から令和3年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各決定処分並びに重加算税及び無申告加算税の各賦課決定処分(重加算税の各賦課決定処分については、いずれも各変更決定処分により無申告加算税相当額を超える部分が取り消された後のもの)、⑦令和4年1月1日から令和4年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分・①全部取消し、②一部取消し、③~⑦棄却)
- 令和7年10月20日裁決
- 裁決事例集 第141集
ポイント
本事例は、原処分庁が国税通則法第68条《重加算税》第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして主張する事情によっては、請求人が、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為を行ったとは認められず、また、当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告等をしたとも認められないとして、請求人に重加算税の賦課要件を満たす行為があったとは認められないとしたものである。
要旨
原処分庁は、請求人が、①取引先(本件法人)からの売上げ(本件売上げ)を請求人の妻名義である預金口座(本件口座)に振り込ませていたこと、②本件売上げに係る手書きの請求書を作成していたこと、③実際の収入金額を把握しており、申告した収入金額がそれより少ないことを認識していたこと、④申告に当たっては、まず経費の合計額を算出し、当該合計額に所得控除額を加え、納税額が支払える金額になるように収入金額と所得金額を決めていたことからすれば、請求人には、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為がある、又は、請求人が、当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告等をしたものと認められることから、国税通則法第68条《重加算税》第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす旨主張する。
しかしながら、上記①についてみると、請求人の売上先は本件法人のみであり、請求人は本件口座に振り込まれた本件売上げについて過少であったとはいえ申告していたことからすると、上記①の行為により本件売上げの存在を隠蔽又は事実をわい曲したとはいえない。また、上記②ないし④については、請求人が意図的に過少申告をしたことを示す事情に該当すると認められるものの、請求人が何らの基準や根拠のない「支払える金額」を納税額として申告書に記載して過少申告をし続けたと評価できるにとどまる。したがって、請求人は、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為を行ったとは認められず、また、当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告等をしたとも認められないことから、請求人に重加算税の賦課要件を満たす行為があったとは認められない。
参照条文等
裁決本文
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、タイル工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税等及び消費税等について、原処分庁が、売上金額等に係る隠蔽又は仮装の行為があったとして更正等処分及び重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、これらの処分の前提となった請求人の売上金額等は、その一部が請求人の弟に帰属するものであるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
また、通則法第68条第2項は、通則法第66条《無申告加算税》(令和5年法律第3号による改正前のもの)第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、本件弟は、請求人と同居している。
請求人兄弟は、本件法人との間で、平成26年4月1日付の「タイル工事契約約款」と題するタイル工事の請負契約に係る契約証書をそれぞれ作成しており(以下、当該各契約証書を「本件各契約書」という。また、本件各契約書による契約を「本件各契約」といい、本件各契約のうち、本件弟に係る契約を「本件弟契約」という。)、本件各契約書には要旨次のことが記載されている。
本件法人は、元請業者に対して令和2年12月1日付で「建設業法・雇用改善法等に基づく届出書(変更届)(再下請負通知書様式)」と題する書面(以下「本件届出書」という。)を作成して提出しているところ、本件届出書上、請求人兄弟はそれぞれが本件法人の再下請負業者とされている。
また、本件法人は、一次下請負業者として、令和2年12月1日付で「下請負業者編成表」と題する書面(以下「本件編成表」といい、本件届出書と併せて「本件編成表等」という。)を作成しており、本件編成表において、請求人兄弟は、それぞれが二次下請負業者として記載されている。
また、請求人兄弟の令和4年分の所得税等の確定申告書に記載された事業所得の総収入金額の合計額は、令和4年中の本件売上げの金額の合計額より6円少ない金額である。
(4) 審査請求に至る経緯
なお、当該各更正処分における事業所得の金額は、請求人において本件事業に係る帳簿書類等の保存がなかったことから、やむを得ず、所得税法第156条《推計による更正又は決定》の規定に基づき、推計の方法により算定したものである。
なお、上記一部取消しは、再調査の結果、所得税等の事業所得に係る推計において参照すべき類似性のある同業者の増加等に基づき、所得率が変動したことによるものである。
請求人は、上記の各変更決定処分を受け、審査請求の対象を当該各処分後のものとした。
2 争点
(1) 本件事業に係る本件各年分の収入金額及び本件各課税期間の資産の譲渡等の対価の額は、その全額が請求人に帰属するか否か(争点1)。
(2) 請求人に、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったか否か(争点2)。
(3) 請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点3)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件事業に係る本件各年分の収入金額及び本件各課税期間の資産の譲渡等の対価の額は、その全額が請求人に帰属するか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
| 以下のことから、本件事業に係る本件各年分における収入金額及び本件各課税期間における資産の譲渡等の対価の額は、その全額が請求人に帰属する。 | 以下のことから、本件事業に係る本件各年分における収入金額及び本件各課税期間における資産の譲渡等の対価の額は、その全額が請求人に帰属するものではなく、一部は本件弟に帰属する。 |
| イ 請求人は、本件法人に対する本件売上げに係る請求について、「K」との屋号を使用し、本件弟の作業分を含めた内容で行っていた。 また、本件法人は、上記のとおり請求された取引について、請求人と本件弟を区分することなく一つの外注先として管理していた。 なお、本件各契約書は実態を伴ったものではなく、本件弟と本件法人との間に直接取引があったことを証するものとして評価することはできず、また、これを踏まえると、本件各契約書が基となったと思われる本件編成表等についても、実態を伴っているか不明であり、本件編成表等をもって本件弟が本件法人の直接の取引先であると判断することはできない。 |
イ 本件社長は、請求人兄弟をそれぞれ別の取引先として認識しているが、それぞれの売上げを一つの口座に振り込むことを認容していた。そのため、請求人は、請求人兄弟それぞれの請求分を合算して本件法人に請求していたが、その際に請求人の屋号である「K」を使用していたのは、本件法人が管理しやすいようにするためにすぎない。 また、本件法人が、請求人兄弟をそれぞれ独立した事業者として取り扱っていることは、本件法人がそれぞれと本件各契約を締結していること及び本件編成表等にそれぞれを独立した事業者として明記していることから明らかである。 |
| ロ 請求人が本件弟に支払う作業代は、本件法人の計算によらず、請求人が独自に計算を行い支払っていたことから、本件弟が本件売上げに係る請求の全容を把握することは困難であった。 また、請求人兄弟の間で請求書及び領収書の交付がなく、請求人主張割合に基づく本件弟への支払が実際にあったか否かは明らかではない。以上のことからすると、本件売上げの管理は、請求人が行っていたと推認される。 |
ロ 本件弟は、請求人同様、自身の作業内容と人工について完全にかつ正確に把握していた。 また、請求人主張割合による取り分の取決めを請求人と交わしており、請求書及び領収書のやり取りはないが、本件弟は、1人工当たり○○○○円に相当する金額に若干の増額調整を行ったものを請求人から受け取っていた。 |
| ハ 上記イ及びロを踏まえると、本件事業の経営において、本件弟は実質的に請求人の支配下にあり、請求人が本件事業の経営主体であったといえる。 | ハ 請求人兄弟は、それぞれがG保険組合の組合員であるから、本件弟は請求人の従業員ではない。 また、本件弟は、請求人と同様、本件社長から本件事業に関する指示や連絡を受け、業務報告も行っている。 |
(2) 争点2(請求人に、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
| イ 以下のとおり、請求人に、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為があり、重加算税の賦課要件を満たす。 | イ 以下のとおり、請求人に、重加算税の賦課要件を満たす行為はない。 |
| (イ) 本件売上げは、その全額が請求人に帰属するところ、請求人には、①本件売上げを請求人の妻名義である本件口座に振り込ませていたこと、②毎月の売上げに係る手書請求書を作成していたこと、③実際の収入金額を把握しており、申告した収入金額がそれより少ないことを認識していたこと、④確定申告については、まず経費の合計額を算出し、当該合計額に所得控除額を加え、納税額が支払える金額になるように収入金額と所得金額を決めて申告していたこと、以上の行為が認められる。 | (イ) 仮に本件売上げの全額が請求人に帰属するとしても、左欄の①については、未使用口座であったために使用しただけであり、また、請求人の妻は外国人で日本語が不自由であることから口座の管理自体ができず、当該口座は請求人が管理していた。同②については、手書請求書の作成は本件法人との工数管理等に必要な書類であって、本件法人との取引上不可欠な手続である。同③については、本件売上げのうち、請求人主張割合により請求人に帰属する部分の金額を把握していたものである。 |
| (ロ) 上記(イ)の各行為は、請求人が、本件売上げをあたかも請求人以外の者に帰属するかのような外形を作出し、過少に収入金額及び所得金額を算出したものと認められるから、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為があったと認められ、これを原因として、平成28年分ないし令和3年分の所得税等について過少申告をしたものである。 | (ロ) 上記(イ)のとおり、請求人が書類を仮装したことはなく、また、古い書類を破棄しているものの本件法人で保管していると思っていたためであり、隠蔽の意図もない。請求人が過少申告をした事実はあるが、取引上の行為や事実を故意にわい曲して申告したものではない。 |
| ロ また、上記イの(イ)の①、③及び④の各行為からすれば、請求人は、6年以上の長期間にわたり、事業所得に係る総収入金額及び事業所得の金額を正確に、かつ、容易に算出できたにもかかわらず、その収入金額を意図的に過少な金額に調整して算出し続けていた上で、平成28年分ないし令和3年分の所得税等について、その収入金額の4割前後も脱漏した申告書を提出したものである。そして、上記の請求人の一連の行動からすれば、請求人は、当初から所得を過少に申告し、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告をした場合又はその意図に基づき申告をしなかった場合に該当し、重加算税の賦課要件を満たす。 | ロ 左欄のイの(イ)の①、③及び④の各行為については、上記イの(イ)の事実に加え、請求人は本件売上げの一部が本件弟に帰属すると認識しており、収入金額の4割前後もの金額を脱漏した申告書を提出した事実もその認識もないことからすると、「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」に当たらない。 なお、原処分庁の左欄の主張は、請求人が意識的に過少な申告を行ったものであるということを繰り返し主張しているにすぎない。 したがって、請求人に、重加算税の賦課要件を満たす行為はない。 |
(3) 争点3(請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
| 上記(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件事業に係る本件各年分における収入金額は、その全額が請求人に帰属し、請求人は、上記(2)の「原処分庁」欄のとおりの行為をした。このような請求人の各行為は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作を伴う不正な行為に該当するから、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する。 | 上記(1)の「請求人」欄のとおり、本件事業に係る本件各年分における収入金額は、その全額が請求人に帰属するものではなく、一部は本件弟に帰属するのであり、また、原処分庁が主張する請求人の各行為は、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当しない。 |
4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件事業に係る本件各年分の収入金額及び本件各課税期間の資産の譲渡等の対価の額は、その全額が請求人に帰属するか否か。)について
所得税法第12条は、上記1の(2)のイのとおり規定するところ、当該規定は法律上の所得の帰属の形式とその実質が異なるときには、実質に従って租税関係が定められるべきであるという租税法上の当然の条理を確認的に定めたものと解される。
したがって、事業所得の帰属についても、実質に従って定まるものというべきであるから、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合考慮し、経営主体としての実態を有するかを社会通念に従って判断すべきである。
また、消費税法第13条第1項は、上記1の(2)のロのとおり規定するところ、当該規定は、上記所得税法第12条と同趣旨であると解される。
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
請求人は、○歳(昭和58年)頃からタイル工事業を始め、以来タイルを扱う工事全般を行っている。本件弟は、中学校を卒業後、専門学校での職業訓練を経て、請求人と共にタイル職人として稼働している。
本件各契約書は、本件各契約に基づく協議、承諾、通知、指示及び請求等は、原則として書面により行う旨定めている(上記1の(3)のハの(ロ))ものの、日々の業務において本件各契約に基づく厳格な運用は行われておらず、工事の発注から売上金の支払に至る一連の取引形態等について、本件各契約書の作成前後で取扱いが変更されたこともなかった。
本件編成表は、本件法人が、工事の施工現場に掲示したり、本件法人の元請業者に提出したりするために作成したものである。
平成28年ないし令和4年において、本件法人における請求人兄弟の単価は、1人工各○○○○円とされていたところ、請求人兄弟の間では、タイル職人として技術や経験の差があることなどから、本件弟の取り分は1人工○○○○円と合意され、減額分の○○○○円は請求人の取り分となるものとされていた。
また、本件法人は、上記合意や本件売上げが請求人兄弟の間でどのように配分されているかについては関知していなかった。
本件売上げは、請求人兄弟が本件事業に従事するようになって以降、一貫して請求人が、上記1の(3)のロの(ハ)及び(ニ)のとおり、「K」の屋号で本件弟の施工分も含めて本件法人に対して一括して請求し、請求人が管理する本件口座にその全額が振り込まれた後、本件弟の請求に応じて本件弟の取り分(平成28年ないし令和4年については上記(ニ)のとおり1人工○○○○円)に作業日数を乗じた金額が請求人から本件弟に支払われるという取扱いになっていた。
また、手書請求書に記載された「件名」と、同一の月の確定請求書に記載された「現場名」は必ずしも一致するものではなく、手書請求書に記載された人工数に1人工○○○○円を乗じた金額は、同一の月分の確定請求書の請求額と、証拠の現存する4か月分において、いずれも一致しない。
請求人兄弟は、本件事業において、同じ現場で作業することが多いところ、タイルやセメント等の施工に必要な資材は本件法人が負担して用意することとなっており、糸や釘等の施工道具や消耗品についてはそのほとんどを請求人が負担していた。また、請求人は、本件弟が本件事業に使用する車両の駐車場に係る費用を負担していた。
この点、請求人は、本件売上げについて請求人主張割合のみが請求人に帰属し、残余の額は本件弟に帰属する旨主張することから、請求人が本件弟の施工分を含む本件売上げの全額について本件事業の経営主体としての実態を有するか否かを以下検討する。
他方で、本件各契約は、上記1の(3)のハの各条項のほか、請求人又は本件弟が本件法人から工事を請け負う際の一般的な内容を定めたものであって、個別具体的な工事に係る請負契約ではない。また、本件弟が、本件弟契約によることなく、請求人の下請として本件事業に関与することは否定されていない。これらに加え、上記ロの(ロ)のとおり、日々の業務において、本件各契約に基づく厳格な運用がされていたものではなく、請求人兄弟が本件事業に従事するようになった平成23年以降、本件各契約書の作成日付である平成26年4月1日の前後で工事の発注から売上金支払に至る一連の取引形態等に特に変更はなかったこと、当審判所の調査によれば、本件社長は、国による規制強化への対応及び元請業者からの求めに応じること等を目的として本件各契約書を作成した旨申述又は答述していることからすると、本件各契約は、主として規制の強化や元請業者に本件各契約書を提出するといった形式的な理由から締結されたものである可能性も否定できない。
以上の事情からすると、本件弟が、本件各契約すなわち本件法人との直接の契約関係に基づいて本件事業に関与していたと直ちに認定することはできず、本件各契約の存在をもって、本件事業に係る契約関係や本件売上げの帰属が直ちに定まるとまでは評価できない。そこで、以下においては、請求人のみならず、本件弟も本件法人との間で本件弟契約を締結しているという事実を念頭に置きつつも、本件事業の実態について、その他の要素も踏まえて慎重に検討することとする。
さらに、本件売上げに係る関係資料を子細にみると、次のような指摘ができる。すなわち、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、請求人兄弟は手書請求書に記載した人工数によって本件売上げを見込んでいたものと推察されるところ、上記ロの(ヘ)のBのとおり、確定請求書においては、1人工○○○○円として請求額が算出されている現場がある一方、「1式」などとして請求額が算出されている現場もあること及び証拠の現存する手書請求書の記載による請求額相当の金額が確定請求書の請求額といずれも一致しないことからすると、本件売上げの見込額と実際に本件口座に振込入金される本件売上げの金額に差額が生じることとなる。他方で、上記ロの(ニ)及び(ホ)の事実からすると、本件弟が請求人から受け取る金額は、請求人兄弟の合意に基づく1人工○○○○円であり、当該差額にかかわらず変動はなかったものと認められる。そうすると、当該差額により生じる収入金額の変動リスクは、本件弟には生じておらず、専ら請求人に生じていたということができる。このことからすると、本件売上げは、その全額が請求人に一旦帰属した上で請求人の計算で本件弟に対する支払をしていたとみるのが自然であり、請求人と本件弟との間に元請と下請の契約関係があることをうかがわせる一方、本件弟に帰属する収入が本件弟と本件法人との間の直接の契約関係に基づくとの認定にはそぐわないといえる。
したがって、本件事業に係る本件各年分の収入金額及び本件各課税期間の資産の譲渡等の対価の額は、その全額が請求人に帰属する。
この点、当審判所の調査によれば、本件社長は、本件調査において、令和5年11月30日、本件弟は請求人の弟子であって本件法人の取引先ではない旨申述した後、再調査手続において、令和6年8月16日、本件各契約書を見直した結果、本件弟は本件法人の取引先であるとの考えに至ったと申述を変遷させ、当該変遷の理由は当初の申述をした際に多忙であったためであるとする。
しかしながら、本件社長は、本件法人の専属の職人である請求人兄弟と継続的に関わってきたのであるから、本件弟を取引先と認識しているか否かという点について、多忙であったとしてもそもそも勘違いするような事柄であるとは思われない。また、当初の申述は、申述がされた3日後に質問応答記録書によりその内容を確認し、本件社長は訂正を申し出ることなく署名しているのであって、申述の内容について確認する期間や機会は確保した上でなされたものであることからすると、やはり当初の申述時に多忙であったとの上記変遷理由は納得できるものとは言い難い。このように、申述内容の変遷に合理的な説明がないことに加え、請求人兄弟は、本件法人の専属の職人として10年を超える相当期間従事した者らであり、本件社長とは密接な関係性にあったことを踏まえると、本件社長が、請求人兄弟の利益を考えて申述を変遷させた疑いは払拭できない。したがって、上記の点に関する本件社長の申述を信用することはできない。
また、本件編成表等についてみると、上記1の(3)のニ及び上記ロの(ハ)のとおり、本件弟が本件法人の下請業者とされているものの、本件編成表等自体も本件法人の元請となる法人等に提出することなどを目的に本件法人において作成された資料であることなどを踏まえると、本件編成表等は、必ずしも本件事業の実態を反映したものとは考え難い。そうすると、本件各契約に加えて本件編成表等の存在を併せて考慮しても、上記ハの本件売上げに係る収支の管理状況等による認定を覆すほどの事情とは評価できない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
しかしながら、仮に請求人の主張する事情があったとしても、請求人が本件事業に係る収支を管理することを妨げる事情ではなく、上記ハの本件売上げに係る収支の管理状況等による認定を覆すほどの事情とは評価できない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
しかしながら、上記前段の主張は、本件弟が一人親方であるということを意味するにとどまり、それ自体で本件法人との取引実態を推認させるようなものではない。また、上記後段の主張については、元請業者が現場作業員に対して直接現場の指示を行うことが直ちに不合理なものとはいえない上、殊に本件においては、請求人と本件弟が同居している兄弟という私的にも近しい関係性にあることに加え、請求人兄弟は本件法人の専属の職人であって、本件社長との間にも平成23年頃以降継続的な関係性があったことも考慮すると、本件社長が、現場で実際に作業をする職人である本件弟に直接業務の指示等をしていたとしても特に不自然ではない。そうすると、請求人の主張は、いずれも上記ハの認定を覆すほどの事情とは評価できない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(2) 争点2(請求人に、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったか否か。)について
通則法第68条第1項及び第2項は、通則法第65条第1項又は第66条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき、法定申告期限までに納税申告書を提出しないとき又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税又は無申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
この重加算税の制度は、納税者が過少申告、無申告又は期限後申告(以下、これらを併せて「過少申告等」という。)をするについて隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告等の行為そのものが隠蔽又は仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告等の行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告等がされたことを要するものである。
しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではなく、納税者が、当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告等をしたような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解するのが相当である(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人は、本件調査の初日である令和5年11月7日に行われた質問調査の際に、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件事業の売上先は本件法人のみであり、本件売上げは月末締めで請求し翌月15日に本件口座へ支払われることとされており、請求人が本件弟の分も併せて請求を行っている旨回答したと認められる。
本件では、原処分庁が、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、請求人には①隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為があり、また、②当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告等をしたといえ、上記①及び②のいずれに基づいても重加算税の賦課要件を満たす旨主張し、請求人が、同「請求人」欄のとおりこれを争うことから、以下では、まず上記①について検討し、これが認められない場合に同②を検討する。
原処分庁は、請求人による隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為として、①本件売上げを請求人の妻名義である本件口座に振り込ませていたこと、②毎月の売上げに係る手書請求書を作成していたこと、③実際の収入金額を把握しており、申告した収入金額がそれより少ないことを認識していたこと、④確定申告については、まず経費の合計額を算出し、当該合計額に所得控除額を加え、納税額が支払える金額になるように収入金額と所得金額を決めて申告していたことを挙げる。
まず、上記①についてみると、取引上の名義を装うなどの事実をわい曲する行為は仮装行為と評価されるところ、上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、本件法人は本件売上げを請求人の妻名義である本件口座に振り込んでいたと認められる。
しかしながら、上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、本件売上げについて、請求人の売上先は本件法人のみであり、請求人は、本件口座に振り込まれた本件売上げについて、過少であったとはいえ申告していたことからすると、請求人が、妻の名義である本件口座に本件売上げを振り込ませる行為により本件売上げの存在を隠蔽又は事実をわい曲したとはいえず、当該行為をもって、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為とはいえない。
次に、原処分庁が主張する上記②ないし④については、請求人が意図的に過少申告をしたことを示す事情にすぎないから、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為とはいえない。そして、原処分庁は、上記①の行為のほか、過少申告等の行為そのものとは別個の隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為について主張立証をせず、本件全証拠によっても、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為の存在は認められない。
したがって、請求人に隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為があることを理由として、重加算税の賦課要件が満たされるとはいえない。
原処分庁は、上記(イ)の①、③及び④の各行為からすれば、請求人は、6年以上の長期間にわたり、事業所得に係る総収入金額及び事業所得の金額を正確に、かつ、容易に算出できたにもかかわらず、その収入金額を意図的に過少な金額に調整して算出し続けていた上で、平成28年分ないし令和3年分の所得税等について、その収入金額の4割前後も脱漏した申告書を提出したものであり、これらの一連の行動からすれば、当初から所得の過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告等をした場合に該当する旨主張する。
しかしながら、上記(イ)の①の行為については、上記(イ)で説示した理由に加え、上記ロのとおり、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件調査の初日において、売上先が本件法人のみであること及び本件売上げが本件口座に振り込まれることを回答していることからすると、請求人が本件口座を利用することにより過少申告等を意図していたとは認められない。
また、上記(イ)の③及び④の行為については、当審判所の調査によっても、請求人の「支払える金額」とはどのような金額を意図したものかは明らかではなく、何らかの基準あるいは根拠に基づくものであるかも不明といわざるを得ない上、調整の態様についても、上記(イ)の④の方法により請求人が「支払える金額」にしたという以上に収入金額を調整するための具体化された手順等があったこともうかがわれない。そうすると、本件の事実関係の下においては、請求人は、何らの基準や根拠のない「支払える金額」を納税額として申告書に記載して過少申告をし続けたと評価できるにとどまる。
以上によれば、請求人は、複数年にわたり過少申告をし続けていたとはいえ、上記(イ)の③及び④の行為については、何らの基準や根拠のない「支払える金額」を納税額として申告書に記載して過少申告をし続けたと評価できるにとどまる上、上記(イ)の①の行為については、請求人の過少申告を意図した行為であるとは認められないことからすれば、原処分庁が主張する請求人の各行為によっては、請求人が当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしていたとまでは評価できない。
そのほか、本件全証拠によっても、請求人が当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告等をしたとは認められない。
したがって、請求人が当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告等をしたことを理由として、重加算税の賦課要件が満たされるとはいえない。
(3) 争点3(請求人に、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について
通則法第70条第5項柱書及び同項第1号は、「偽りその他不正の行為」によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合、これに対して適正な課税を行うことができるよう、同条第1項各号掲記の更正又は賦課決定等の除斥期間を同項の規定にかかわらず7年とすることを定めたものである。
したがって、通則法第70条第5項第1号にいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為を行っていることをいうものと解するべきであり、かかる工作を伴わない単なる過少申告は、「偽りその他不正の行為」に当たらないと解される。
上記3の(3)の「原処分庁」欄で原処分庁が主張する各行為は、上記(2)のハと同様の理由から、いずれも平成28年分及び平成29年分の所得税等の税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作を伴う不正の行為に該当するとは認められない。
その他、本件全証拠によっても、請求人について、ほかに「偽りその他不正の行為」に該当する事実は認められない。
したがって、請求人に通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実は認められない。
(4) 本件各更正処分及び本件各決定処分の適法性について
請求人の平成28年分及び平成29年分の所得税等については、上記(3)のロのとおり、通則法第70条第5項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」があるとは認められないから、同号の要件を満たさない。そうすると、本件各更正処分のうち、平成28年分及び平成29年分の所得税等に係る各更正処分は、通則法第70条第1項柱書及び同項第1号に規定する期間制限を超えてされた違法なものであるから、いずれもその全部を取り消すべきである。
上記(1)のとおり、本件事業に係る本件各年分の収入金額及び本件各課税期間の資産の譲渡等の対価の額は、その全額が請求人に帰属すると認められる。
そして、原処分庁は、上記1の(4)のハのとおり、請求人の本件各年分の事業所得の金額を、所得税法第156条の規定に基づいて推計の方法により算定しているところ、請求人は帳簿書類を保存しておらず、当審判所の調査の結果によっても、請求人の本件各年分の事業所得の金額を実額で計算することは著しく困難であり、推計の必要性があったと認められる。
さらに、原処分庁は、請求人の本件各年分の事業所得の金額を、請求人の売上金額を基礎として同業者比率法により算定しているところ、当審判所の調査の結果によれば、原処分庁が行った推計方法には合理性があると認められ、請求人の平成30年分ないし令和4年分の総収入金額、所得率及び事業所得の金額は、別表3の各「審判所認定額」欄の金額及び割合となる。これらの各金額のうち、平成30年分、令和元年分、令和3年分及び令和4年分の総収入金額、所得率及び事業所得の金額は、いずれも上記1の(4)のホの再調査決定時に原処分庁が示した金額及び割合と同額又は同割合であり、令和2年分については、原処分庁が所得率の計算に当たり抽出した同業者に誤りはなかったものの、そのうちの一同業者について、青色申告特別控除後の所得金額を用いて計算していたことから、青色申告特別控除前の所得金額を用いて計算したところ、別表3の「令和2年分」の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
以上に基づき、請求人の平成30年分ないし令和4年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額並びに本件各課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき消費税額等を計算すると、所得税等については別表4のとおりとなり、原処分の額(本件各更正処分のうち平成30年分ないし令和4年分の各更正処分の金額)と同額となるか上回り、消費税等については本件各決定処分の金額と同額となる。
そして、本件各更正処分のうち、平成30年分ないし令和4年分の所得税等の各更正処分及び本件各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件各更正処分のうち、平成30年分ないし令和4年分の所得税等の各更正処分及び本件各決定処分は、いずれも適法である。
(5) 本件所得税等各賦課決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分の適法性について
上記(4)のイのとおり、本件各更正処分のうち、平成28年分及び平成29年分の所得税等に係る各更正処分はいずれも違法であり、その全部を取り消すべきであるから、平成28年分及び平成29年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
また、上記(4)のロのとおり、本件各更正処分のうち、平成30年分ないし令和4年分の所得税等の各更正処分はいずれも適法である。そして、平成30年分ないし令和3年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分については、上記(2)のとおり、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったとは認められない。
他方で、請求人の平成30年分及び令和元年分の所得税等については、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、これらの年分の更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第5項に規定する正当な理由があるとは認められない。また、請求人の令和2年分ないし令和4年分の所得税等については、通則法第66条第1項所定の要件を充足するところ、これらの年分の期限内申告書の提出がなかったことについて、同項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。おって、請求人の令和4年分の無申告加算税の額は、当審判所においても原処分における金額と同額となる。
そして、本件所得税等各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、平成30年分ないし令和3年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、いずれも過少申告加算税相当額又は無申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法であるから、別紙1ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきであり、令和4年分の所得税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は適法である。
上記(4)のロのとおり、本件各決定処分はいずれも適法であり、期限内申告書の提出がなかったことにつき、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。また、本件消費税等各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。そして、当審判所においても、本件各課税期間の消費税等に係る各加算税の額は、原処分における金額(本件消費税等各賦課決定処分の金額)と同額であると認められる。
したがって、本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。
(6) 結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。
別表1 審査請求に至る経緯(所得税等)(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(消費税等)(省略)
別表3 請求人の本件各年分の事業所得の金額(省略)
別表4 審判所認定額(所得税等)(省略)
別紙1から別紙4 取消額等計算書(省略)
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