滞納処分において相続財産管理人の報酬が国税債権に優先することが自明の理であるとはいえず、また、差押財産の選択等に関する判断は不合理とは認められないとした事例(債権の差押処分・棄却)
- 令和6年10月4日裁決
- 裁決事例集 第137集
ポイント
本事例は、差押処分時において被差押債権について国税に優先する債権は確認できなかったことから、無益な差押えに該当せず、また、差押えに至る経緯によれば、差押財産の選択等に関する判断は法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理とは認められないことから、差押えは不当な処分であるとはいえないとしたものである。
要旨
請求人は、①民法第885条《相続財産に関する費用》本文の「費用」には相続財産管理人(管理人)の報酬や立替経費が含まれ、管理人が同法第929条《公告期間満了後の弁済》ただし書の「優先権を有する債権者」に該当すること、②相続財産の清算手続は破産手続に類似し、国税徴収法(徴収法)第9条《強制換価手続の費用の優先》の準用又は類推適用により、管理人の報酬債権が国税に優先するとした上で、管理人の予定報酬額は、管理人名義預金口座(本件預金口座)の残高を上回ることから、本件預金口座の残高の一部の払戻請求権を差し押さえた(本件差押処分)ことは、無益な差押えに当たり徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第2項に反する旨主張する。
しかしながら、①相続財産法人に対する債権者は、相続財産法人について管理人による清算が行われている場合であっても、強制執行や滞納処分を行うことが妨げられないところ 、滞納処分においては、徴収法第8条《国税優先の原則》により、徴収法第2章《国税と他の債権との調整》に別段の定めがある場合を除き国税は他の債権に優先すると規定されているのであるから、上記民法の規定は管理人の報酬が国税に優先することの根拠となるものではなく、②破産手続では国税債権者は滞納処分の執行が制限される一方で破産管財人に交付要求手続を行うことで破産財団から随時弁済や配当を受けることができるのに対し、相続財産の清算手続では、滞納処分の執行は制限されないことや、相続財産をもって相続債権者等に対する債務を完済することができないと認めるときには管理人は破産手続開始の申立てができることに鑑みれば、管理人による清算手続は、破産手続とその性質を異にするものであって、強制換価手続に相当するものとはいえないから、徴収法第9条は準用又は類推適用されない。したがって、管理人の報酬債権は国税に優先せず、他に被差押債権につき国税に優先する債権は確認できなかったから、本件差押処分は無益な差押えに該当しない。
また、請求人は、管理人の報酬額が差押財産の価額を上回るにもかかわらず滞納処分による差押えを行うという運用が認められてしまうと、管理人の役職を引き受ける者がいなくなるという不当な状況に陥る可能性があり、また、原処分庁は、回収の努力もせずに、管理人の努力の結果集められたものを横取りしているに等しいことなどを理由として、本件差押処分は不当であると主張する。
しかしながら、請求人は、国税通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》の規定により、被相続人が納付すべきであった滞納国税を納める義務を承継しているところ、本件差押処分までの2年以上の間、原処分庁から複数回の催告を受けたにもかかわらず、国税に充てる金額は残っていないとして当該滞納国税を自主納付しなかったことからすると、当該滞納国税について自主納付による完納の見込みがあったとはいえなかったのであるから、原処分庁としては、当該滞納国税を徴収するためには、財産の差押えによって回収を図らざるを得なかったというべきであり、また、公売手続に時間を要する不動産ではなく預金債権を差押えの対象とした判断が、法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理とは認められず、本件差押処分が不当な処分であるとは認められない。
参照条文等
裁決本文
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、原処分庁が、死亡した滞納者から納税義務を承継した相続財産法人である審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、請求人の有する債権の差押処分をしたのに対し、請求人が、当該差押処分は無益な差押えに該当するなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
本件被相続人については、相続人のあることが明らかでなかったことから、民法第951条の規定により、その相続財産(以下「本件相続財産」という。)は法人とされ、当該相続財産法人である請求人は、通則法第5条第1項の規定に基づき、本件被相続人から本件滞納国税を納める義務を承継した。
2 争点
(1) 本件差押処分は、徴収法第48条第2項に規定する無益な差押えに該当するか否か(争点1)。
(2) 本件差押処分は、不当な処分であるか否か(争点2)。
3 争点についての主張
(1) 争点1(本件差押処分は、徴収法第48条第2項に規定する無益な差押えに該当するか否か。)について
| 原処分庁 | 請求人 |
|---|---|
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(2) 争点2(本件差押処分は、不当な処分であるか否か。)について
| 請求人 | 原処分庁 |
|---|---|
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4 当審判所の判断
(1) 争点1(本件差押処分は、徴収法第48条第2項に規定する無益な差押えに該当するか否か。)について
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
しかしながら、相続財産法人に対する債権者は、相続財産法人について相続財産管理人による清算が行われている場合であっても、相続財産法人に帰属する財産に対して強制執行や滞納処分を行うことが妨げられないところ、滞納処分においては、徴収法第8条により、徴収法第2章に別段の定めがある場合を除き国税は他の債権に優先すると規定されているのであるから、民法第885条や同法第929条ただし書の規定は、滞納処分において、相続財産管理人の報酬が国税に優先することの根拠となるものではない。また、破産手続との類似から徴収法第9条の準用ないし類推適用を主張する点についても、破産手続では、国税債権者は滞納処分の執行が制限される一方で破産管財人に交付要求をすることで破産財団から随時弁済や配当を受けることができるのに対し、相続財産管理人による清算手続では、滞納処分の執行は制限されないことや、相続財産をもって相続債権者等に対する債務を完済することができないと認めるときには相続財産管理人は破産手続開始の申立てができること(破産法第223条《相続財産の破産手続開始の原因》、第224条《破産手続開始の申立て》)に鑑みれば、相続財産管理人による清算手続は、破産手続とその性質を異にするものであって、徴収法第2条第12号に規定する強制換価手続に相当するものとはいえないから、相続財産管理人による清算手続について、徴収法第9条が準用又は類推適用されるとは解されず、請求人の主張は採用できない。
請求人は、また、最高裁昭和45年判決は、破産管財人の報酬が公租公課よりも優先されるのは明文の規定がなくとも元来自明のことであるとして法解釈により破産管財人の報酬に優先権を与えており、この元来自明の理は、相続財産管理人の報酬や立替経費にも当然に相当するから、本件相続財産管理人の報酬は本件滞納国税に優先するとも主張するが、以上に述べたとおりの相続財産管理人による清算手続の制度や破産手続との相違に鑑みれば、滞納処分において相続財産管理人の報酬が国税債権に優先することが、自明の理であるとはいえない。
したがって、滞納処分において、相続財産管理人の報酬が国税に優先するとの請求人の主張は採用できない。
以上によれば、本件差押処分は、徴収法第48条第2項に規定する無益な差押えには該当しない。
(2) 争点2(本件差押処分は、不当な処分であるか否か。)について
原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
原処分庁は、請求人に対し、令和3年6月16日付で「相続による納税義務承継通知書」を送付した以後、本件差押処分に至るまで、電話又は文書による納付催告を複数回行ったが、本件相続財産管理人は、本件相続財産管理人の報酬すら不足している状況であり、国税に充てる金額は残っていない旨回答して、一度も本件滞納国税を自主納付しなかった。
本件相続財産のうち、原処分庁が本件差押処分時までに把握していたものは、本件預金口座の残高のほか、田畑等の不動産のみであった。
上記ロの(イ)のとおり、請求人は、令和3年6月16日付で「相続による納税義務承継通知書」の送付を受けた以後、本件差押処分までの2年以上の間、原処分庁から複数回の催告を受けたにもかかわらず、国税に充てる金額は残っていないとして本件滞納国税を自主納付しなかったことからすると、自主納付による完納の見込みがあったとはいえないから、本件差押処分の時点において、同処分を行う必要性は高かったと認められる。また、上記ロの(ロ)のとおり、本件相続財産のうち、原処分庁が本件差押処分時に把握していたのは、本件預金口座の残高のほか、田畑等の不動産のみであり、本件滞納国税が約○○○○円であったことからすれば、本件徴収担当職員が本件滞納国税を徴収するために、滞納処分費が見込まれる上に公売手続に時間を要する不動産ではなく、本件預金債権を差押えの対象として選択した判断が、特段不合理であったとは認められない。
そのため、本件差押処分において、差押えの必要性、差押えの時期又は差押財産に関する選択に裁量権の逸脱又は濫用はなく、上記イの(ハ)のとおり、徴収職員の差押処分に関する判断が裁量権の範囲内であっても、法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理なものであると認められる場合には、当該差押処分は不当となることがあるものと解されるが、以上の差押えに至る経緯によれば、本件差押処分に関する判断は、法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理とは認められない。
したがって、本件差押処分は不当な処分であるとはいえない。
請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件差押処分のような運用が認められてしまうと、相続財産管理人の役職を引き受ける者もいなくなるという不当な状況に陥る可能性があり、また、原処分庁は、回収の努力もせずに、本件相続財産管理人の努力の結果集められたものを横取りしているに等しいなどとして、本件差押処分は不当であると主張する。
しかしながら、上記1の(3)のロのとおり、請求人は、通則法第5条第1項の規定により、本件被相続人が納付すべきであった本件滞納国税を納める義務を承継しているところ、上記ハのとおり、自主納付による完納の見込みがあったとはいえなかったのであるから、原処分庁としては、本件滞納国税を徴収するためには、財産の差押えによって回収を図らざるを得なかったというべきであり、また、上記ハのとおり、本件差押処分に関する判断が特段不合理でないことからすると、たとえ請求人が上記3の(2)の「請求人」欄において主張するような事情があったとしても、本件差押処分が不当な処分であるとは認められない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(3) 本件差押処分の適法性等について
本件差押処分は、上記1の(3)のイ及びヘのとおり、徴収法第47条第1項柱書及び同項第1号が規定する差押えの要件を充足しており、上記(1)のとおり、無益な差押えには該当しない。そして、本件差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件差押処分は適法であり、上記(2)のとおり、これが不当な処分であるともいえない。
(4) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件滞納国税の明細(省略)
別表2 本件差押処分に係る債権の内容(省略)
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