請求人が得た構造計算適合性判定業務などに係る収入は、支払先との契約関係及び労務提供の態様から給与所得に該当するとした事例(平成30年分から令和元年分の所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対し更正をすべき理由がない旨の各通知処分並びに令和2年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分・棄却)
- 令和7年6月9日裁決
- 裁決事例集 第139集
ポイント
本事例は、請求人の構造計算適合性判定業務などに係る収入について、支払先との間に雇用契約及び委任関係があることを前提に、支払先の指揮命令の下で、空間的、時間的な拘束を受けて業務を行っていたと認められるから、当該収入は給与所得に該当するとしたものである。
要旨
請求人は、請求人が取締役を務める法人(本件法人)から建築基準法第6条の3《構造計算適合性判定》第1項に規定する構造計算適合性判定に係る業務(本件判定業務)などの対価として得た収入(本件各収入)は、自己の計算と危険において独立して営まれた業務によるものであるから、本件各収入に係る所得が所得税法第27条《事業所得》第1項に規定する事業所得に該当する旨主張する。
しかしながら、①請求人は、本件法人の本件判定業務を行う部署の本部長の肩書で、本件判定業務を行うとともに取締役会で議決権を行使し、また、本件法人は、本件各収入を給与として源泉徴収に係る経理及び事務を行っていたのであるから、請求人と本件法人との間には従業員としての雇用契約及び取締役としての委任契約が成立していたと認められる。そして、②請求人は、本件法人の建物で、内部規定に定める業務時間に本件判定業務を行っていたのであるから、本件法人の指揮命令下で、空間的、時間的な拘束を受けていたと認められるほか、③本件各収入は、本件判定業務の成果にかかわらず毎月定額であるから、請求人が報酬面でのリスクを負担していたとは認められず、請求人は自己の計算と危険によって本件判定業務を行っていたとはいえない。そうすると、本件各収入に係る所得は、事業所得に該当せず、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与所得に該当する。
参照条文等
参考判決・裁決
最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(税資117号316頁) 福岡地裁平成28年10月14日判決(税資266号順号12916) 令和3年11月9日裁決(裁決事例集No.125)
裁決本文
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、構造計算適合性判定業務等を行って得た収入に係る所得について、給与所得として所得税等の確定申告とそれに続く修正申告をした後、当該収入に係る所得は事業所得であったとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分等を行ったことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
なお、本件各明細書のうち「給与明細書」においては、支給欄の合計金額がいずれも月○○○○円と記載され、その内訳は、いずれも基本給が○○○○円、執行役等手当が○○○○円、○○手当が○○○○円、特別手当が○○○○円である旨記載されていた。
なお、本件各源泉徴収簿に記載された総支給金額及び差引徴収税額は、別表1の各年分の「総支給金額」欄及び「差引徴収税額」欄のとおりである。
本件各源泉徴収票の「支払金額」欄には、対応する年分の別表1の「総支給金額」欄の「合計額」欄の金額がそれぞれ記載され、その「源泉徴収税額」欄には、対応する年分の同表の「年末調整年税額」欄の金額がそれぞれ記載されていたが、社会保険料の金額は、本件各源泉徴収票のいずれにも記載されていなかった。
なお、本件法人と請求人との間に雇用契約又はこれに類する契約が締結されていたか否かについては、争いがある。
(4) 審査請求に至る経緯
なお、別表2から別表4までのとおり、請求人が、本件各年分の所得税等の各修正申告書に公的年金等以外の雑所得(以下「その他の雑所得」という。)に係る総収入金額として計上した○○○○円(平成30年分)、○○○○円(令和元年分)及び○○○○円(令和2年分)は、いずれも各申告に係る年分の前年分の所得税等の還付金の額(以下、これらの還付金の額を併せて「本件各還付金」という。)であった。
なお、請求人は、本件各更正請求に際し、区分欄に「建築士報酬」と記載された、本件法人が作成した本件各年分の「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(以下「本件各支払調書」という。)を原処分庁にそれぞれ提出した。
2 争点
本件各収入に係る所得は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか。
3 争点についての主張
| 請求人 | 原処分庁 |
|---|---|
|
(1) 請求人は、建築士法第24条《建築士事務所の管理》により、本件法人の社員として業務を行うことができないから、本件法人とは、雇用契約ではなく業務委託契約を締結し、請求人の個人事業の一環として本件判定業務を行っていた。
また、請求人は、本件各年分において、本件法人の○○部本部長であったが、実際には、本件法人の経営に一切関与しておらず、取締役としての業務に従事した事実はほとんどなかった。 |
(1) 請求人は、自身の判断で第三者に本件判定業務を補助させることや、本件法人以外の者から業務を受けることを禁止され、本件判定業務を行う対象等については、本件法人の決定に服していた。
また、請求人は、本件各年分において、本件法人の○○部本部長の職に就き、本件判定業務を行うほか、本件法人の役員として役員会に出席するなど、取締役としての業務も行っていた。 |
|
(2) 請求人は、本件法人から本件各支払調書を交付されているところ、このことは、本件各収入が、本件法人から業務委託を受け、その対価として建築士報酬の支払を受けていたことを示すものである。
|
(2) 請求人は、「基本給」、「執行役等手当」等の金額及び給与所得に係る源泉徴収税額が記載された本件各明細書を受け取るとともに、毎月定額の収入を得ていた。
そして、本件各支払調書に記載された支払金額及び源泉徴収税額は、いずれも本件各源泉徴収票に記載された各金額と同額であり、当該源泉徴収税額は、報酬等に係る源泉徴収の規定に基づく金額ではなく、本件各収入が業務委託契約に基づく建築士報酬であるとはいえない。 |
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(3) 本件部署は本件法人の一部署ではあるものの、建築基準法上、独立性の強い第三者機関であることから、本件判定員である請求人は、本件各年分において本件法人の代表取締役社長であったE(以下「本件前社長」という。)などから業務の内容を指示されたことがなく、業務遂行に必要な判断を独立して行っていた。
そして、請求人の執務場所は、国土交通省の指導により、本件法人の本社とは○○であり、また、請求人の本件部署での業務時間は、名目上午前9時から午後5時30分までであるが、午後5時30分以降の退社時間を自身の判断で決めていた。 |
(3) 請求人は、本件各年分において、本件前社長から業務の内容を指示されて業務を行っていた。
そして、請求人の勤務地である本件部署は、本件法人の「○○○○」であり、また、請求人は、本件法人の就業規則に基づき、週4日程度、午前9時頃から午後5時30分まで勤務していた。 |
|
(4) 請求人は、自身が所有するパソコン等を本件部署に持ち込み本件判定業務に使用するほか、社会保険料や交通費を自身で負担していた。
また、本件判定員が、故意又は過失によって第三者に損害を与えた場合には、建築基準法の規定により、本件判定員の登録抹消や業務禁止などの処分を受けることとなるから、請求人はこれらの危険を負担して本件判定業務を行っていた。 |
(4) 請求人は、本件法人の備品等を使用して本件判定業務を行っていた上、請求人が本件判定業務により第三者に損害を与えた場合の責任は、本件法人に帰属するものとされていた。
これに対し、請求人が本件判定員の登録抹消や業務禁止などの処分可能性に係る責任を負っているとしても、それは本件判定員の資格者としての責任であり、本件判定業務に係る費用が収益を上回るという事業所得の判断要素となる責任を請求人が負担していたとはいえない。 また、社会保険料の負担の有無は、本件各収入に係る所得が事業所得か給与所得かの判断を左右するものではない。 |
|
(5) 上記(1)から(4)までのとおり、本件判定業務は、請求人の個人事業の一環として行われたものであり、自己の計算と危険において独立して営まれ、反復継続してなされた有償行為たる業務である。
したがって、本件各収入に係る所得は、いずれも所得税法第27条第1項に規定する事業所得に該当する。 |
(5) 上記(1)から(4)までのとおり、請求人は、自己の計算と危険において独立して労務の提供を行っているものではなく、本件法人との関係において、雇用契約又はこれに類する契約に基づき一定の空間的、時間的な拘束を受けて継続的ないし断続的に労務の提供をし、その指揮命令に服して提供した労務の対価として本件法人から本件各収入を得ていたといえる。
したがって、本件各収入に係る所得は、いずれも所得税法第28条第1項に規定する給与所得に該当する。 |
4 当審判所の判断
(1) 法令解釈
また、会社とその役員との間の委任契約も上記の雇用契約に類する原因に当たるものであるから、役員が会社から職務執行の対価として受ける報酬も給与所得に当たると解するのが相当である。
(2) 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
建築基準法第77条の35の12《構造計算適合性判定業務規程》第1項の規定に基づき、本件法人が作成した構造計算適合性判定業務規程(以下「本件業務規程」という。)には、要旨、次の事項が定められていた。なお、請求人は、下記(イ)に定める「担当役員」に該当する。
請求人は、本件法人の取締役であった期間において、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前に本件法人の○○店で開催されたものを除けば、本件法人の取締役会に出席しており、取締役として議決権を行使していた。
本件法人から請求人への支給金額は、本件判定業務に係る件数や達成状況によって変動することはなかった。
別表1の「差引徴収税額」欄の各金額は、同表の「総支給金額」欄の各金額を支給金額として、所得税法第189条《主たる給与等に係る徴収税額の特例》及び東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(以下「復興財源確保法」という。)第29条《居住者の給与等に係る源泉徴収税額及び源泉徴収特別税額の特例》に規定する方法により計算した給与所得に係る源泉徴収税額(ただし、各年の12月分の「差引徴収税額」欄の各金額は、所得税法第190条《年末調整》及び復興財源確保法第30条《年末調整》に規定する方法により計算した源泉徴収税額)と同額であり、また、別表1及び別表5のとおり、本件各源泉徴収票及び本件各支払調書に記載された各源泉徴収税額は、いずれも対応する年分の本件各源泉徴収簿に記載された年末調整年税額と同額であった。
請求人は、出張する場合を除き、本件部署、すなわち「○○○○」が置かれている事務所で本件判定業務を行い、また、原則として、本件業務規程に定める業務時間に本件判定業務を行っていた。
請求人は、本件法人の備品等を使用する一方、本件部署に持ち込む備品代、社会保険料及び交通費を負担していた。
(3) 検討
そして、本件法人は、上記1(3)ホ及びヘ並びに上記(2)ホのとおり、本件各年分において本件各収入を給与所得に係る収入金額として源泉徴収に係る経理・事務を行い、これを基に請求人に本件各源泉徴収票を交付していたのであるから、請求人との間で締結した契約は雇用契約であると認識していたと認められる。
さらに、上記(2)ロのとおり、請求人が本件判定業務において作成した書類には請求人の個人事業であることを明示した記載をしていなかった上、本件判定業務が請求人と本件法人との業務委託契約に基づくものであることをうかがわせる事情も見当たらない。
これらのことからすれば、請求人は、本件法人の従業員である○○部本部長としての地位を有していたといえ、請求人と本件法人との間には、雇用契約が成立していたと認められる。
また、上記(2)ヘのとおり、請求人は、原則、本件部署で、本件業務規程に定める業務時間に本件判定業務を行っていたといえることからすれば、空間的、時間的な拘束を受けつつ、継続的に本件法人に対して労務を提供していたと認められる。
また、本件判定業務から生じる費用については、上記(2)トのとおり、その一部を請求人が負担していたものの、それ以上に、本件判定業務から生じる費用が収益を上回る場合などの経済的な損失について、請求人が負担する義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない。
これらのことからすれば、請求人は、自己の計算と危険において本件法人から独立して本件判定業務を行っていたとはいえない。
以上の検討によれば、請求人が自己の計算と危険において本件法人から独立して本件判定業務を行っていたとはいえず、本件各収入は、雇用契約に基づき本件法人の指揮命令に服して、空間的、時間的な拘束の下、提供した本件判定業務の対価や、委任契約に基づき取締役として行った職務執行の対価として、本件法人から受けた給付であると認められる。
したがって、本件各収入に係る所得は、いずれも給与所得に該当する。
請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、本件判定業務が自己の計算と危険において独立して営まれたものであるから、本件各収入に係る所得が事業所得に該当する旨主張し、その根拠として、①請求人は、建築士法上、本件法人の社員として業務を行うことができないのであるから、本件法人とは雇用契約ではなく業務委託契約を締結したものであり、また、取締役としての業務に従事した事実はほとんどなかった旨、②請求人は、本件法人から本件各収入が業務委託に基づく建築士報酬であることを示すものとして本件各支払調書の交付を受けた旨、③本件部署は、独立性の強い第三者機関であり、また、本件判定員である請求人は、本件前社長などから業務の内容を指示されたことはない上、業務時間についても退社時間を自身が決定していた旨及び④請求人は、自身が所有するパソコン等を本件判定業務に使用し、社会保険料等の費用も負担していたほか、本件判定員として建築基準法上の処分を受ける危険を負担して本件判定業務を行っていた旨などを主張する。
しかしながら、次のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
また、請求人が、担当役員として本件判定に係る業務を管理等するほか、本件法人の取締役会へ出席して議決権を行使していたと認められることは上記イ(ロ)のとおりであり、雇用契約に類する原因である委任契約の存在を前提とした業務にも従事していたといえる。
したがって、請求人の上記①の主張には理由がない。
したがって、請求人の上記②の主張には理由がない。
しかしながら、本件部署に部署として独立性があることをもって、上記ロで認定判断した、請求人が本件業務規程に基づく職務上の責務を負い、本件法人の指揮命令下にあったことや、請求人の労務提供の態様が空間的、時間的な拘束を受けたものであったことが否定されるものではない。
したがって、請求人の上記③の主張には理由がない。
これに加え、請求人が本件判定員として建築基準法上の処分を受ける危険を負担していたとしても、当該負担は、本件判定員の資格を保有することに伴う法律上当然の負担にすぎず、本件判定業務から生じる費用が収益を上回る場合などの経済的な損失に係る負担ではないから、請求人が主張する危険の負担を理由として、本件判定業務が請求人の計算と危険において営まれていたとは認められない。
したがって、請求人の上記④の主張には理由がない。
(4) 平成30年分の申告外の収入とその所得の区分について
(5) 本件通知処分1、本件通知処分2及び本件更正処分の適法性について
本件各収入のうち平成30年分の収入に係る所得は、上記(3)ニのとおり、給与所得に該当し、平成30年分業務に係る所得は、上記(4)ハのとおり、その他の雑所得に該当する。
また、本件各還付金のうち平成30年分の収入として計上した○○○○円は、上記1(4)ロのとおり、平成29年分の所得税等の還付金の額と認められ、課税の対象ではないことから、平成30年分のその他の雑所得に係る総収入金額に算入することはできない。
これらを前提に、当審判所において請求人の平成30年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表6の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件通知処分1の金額を上回る。
そして、本件通知処分1のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分1は適法である。
本件各収入のうち令和元年分及び令和2年分の各収入に係る所得は、上記(3)ニのとおり、いずれも給与所得に該当し、これらの年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額は、当審判所においても、いずれも本件通知処分2及び本件更正処分の各金額と同額であると認められる。
そして、本件通知処分2及び本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件通知処分2及び本件更正処分はいずれも適法である。
(6) 結論
よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。
別表1 本件各源泉徴収簿の総支給金額及び差引徴収税額(省略)
別表2 審査請求に至る経緯(平成30年分の所得税等)(省略)
別表3 審査請求に至る経緯(令和元年分の所得税等)(省略)
別表4 審査請求に至る経緯(令和2年分の所得税等)(省略)
別表5 本件各源泉徴収票及び本件各支払調書の記載内容(省略)
別表6 平成30年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額(省略)
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