取消権の対象となる行為は、財産権を目的とする行為である(民法第424条第2項参照)。したがって、離婚に伴う財産分与(同法第768条参照)、遺産分割協議(同法第907条参照)、会社の新設分割(会社法第762条参照)及び保険金受取人の変更(保険法第43条参照)も詐害行為となり得る(平成12.3.9最高判、平成11.6.11最高判、平成24.10.12最高判、平成18.12.21広島高岡山支判参照)。
詐害行為取消権
(財産権を目的とする行為)
(納税者の悪意)
法第42条の規定に基づく取消権は、納税者が自己の行為により債権者を害する結果になることをその行為の当時知っている場合でなければ成立しないが、債権者を害する意図があることまでは要しない(昭和35.4.26最高判参照)。
また、この納税者の悪意は、一般的に債権者を害することを知っていれば足り、特に租税債権者を害することを知っていることは必要でない。
(詐害行為後に成立した国税)
取消権の被保全債権は、詐害行為の前の原因に基づいて生じたものに限られる(民法第424条第3項参照)から、詐害行為の前に納税義務が成立している国税は取消権の被保全債権となる(昭和42.3.14最高判参照)が、詐害行為の時に納税義務が成立していない国税であっても、その成立の基礎となる法律関係又は事実があり、その成立が高度の蓋然性をもって見込まれる場合には、取消権の被保全債権となる(平成2.9.27大阪高判、平成9.10.30名古屋高判参照)。
なお、詐害行為の前に国税の納税義務が成立していた場合には、その国税について詐害行為以後に成立した延滞税も取消権の被保全債権となる(昭和63.10.20東京高判参照)。
(納税者の無資力)
法第42条の規定に基づく取消権を行使するに当たっては、詐害行為の時から取消権を行使する時まで納税者の無資力が継続している必要がある(昭和12.2.18大判参照)。
なお、納税者が無資力であるかどうかの判定に当たっては、第二次納税義務者、保証人等の有無及びその資力は考慮する必要がないが、第二次納税義務者、保証人等から国税の全額を徴収できると認められるときは、取消権を行使しないものとする。
(同時交換的な行為)
新たな借入行為とそのための担保の設定等の同時交換的な行為についても、民法第424条の2(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)の規定により、法第42条の規定に基づく取消権の行使の対象となる。
(転得者の悪意)
転得者に対して取消権を行使する場合に必要とされる転得者の悪意とは、その転得者及びその前の全ての転得者(以下10において「転得者等」という。)が、それぞれの転得の時に、納税者の行為が債権者を害することを知っていることを意味し(民法第424条の5参照)、取消権の行使の相手方である転得者が、受益者及び他の転得者が悪意であることを知っていることは要しない。
納税者の行為が既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為(民法第424条の3参照)である場合は、その転得者等が、納税者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもってその行為をしたこと(同条第1項第2号、第2項第2号参照)についても知っている必要がある。
(財産の返還請求権の差押え)
法第42条の規定に基づく取消権を行使する場合において、その取消しとともに財産の返還若しくはその価額の償還として金銭の支払又は動産若しくは有価証券の引渡しを求めるときは、その取消しの判決の確定により納税者が将来取得すべき金銭の支払請求権又は動産若しくは有価証券の引渡請求権を差し押さえる(12参照)。
なお、詐害行為が取り消される前においては、その差押えに係る取立て等を行うことはできないことに留意する。
(取消し後の滞納処分等)
詐害行為の取消しがあった場合における滞納処分等は、次によるものとする。
財産の返還又はその価額の償還として金銭の支払を受けるときは、判決に基づき、11の差押えに係る債権の取立てを行う。
返還を受ける財産が動産(金銭を除く。)又は有価証券であるときは、判決に基づき、その引渡しを受けた上で、差し押さえる。ただし、その引渡しに応じないときは、第三者が占有する財産の差押手続に従い差し押さえる。
返還を受ける財産が不動産その他の財産で、登記等の名義を納税者名義とする必要があるときは、判決に基づき、納税者名義とした上で、差し押さえる。
返還を受ける財産が(1)から(3)までに定めるもの以外のものであるときは、判決に基づき、返還を受ける財産を納税者へ回復させた上で、差し押さえる。
徴収法第129条第1項(配当の原則)の規定によって配当した場合において生じた残余金は、同条第3項(滞納者への残余金の交付)の規定により、滞納者に交付する。
詐害行為が取り消された場合には、受益者又は転得者は、滞納者に対し、その行為についてした反対給付の返還又は価額の償還(その行為が弁済等である場合には消滅に係る債権の履行)を請求することができる(民法第425条の2から第425条の4まで参照)が、その請求との同時履行(同法第533条参照)を主張して取消しに係る財産の返還又は価額の償還を拒むことはできない。
(会社法第832条等との関係)
納税者の行為が会社法第832条(持分会社の設立の取消しの訴え)、第863条(清算持分会社の財産処分の取消しの訴え)又は信託法第11条(詐害信託の取消し等)の規定に該当する場合には、それぞれの規定により取消しを請求するものとする。
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