裁決事例 保証債務の履行
要旨
原処分庁は、保証債務の金額を履行した請求人(物上保証人兼連帯保証人)は、他の連帯保証人に対する求償権の行使が可能であるから、当該履行のためにした本件譲渡には所得税法第64条第2項の規定は適用されないと主張するが、請求人が他の連帯保証人に対する求償権を放棄した当時、その連帯保証人は、[1]所得資産はないこと、[2]月505,000円の給与収入のみで生活費にも事欠く状況であったこと、[3]賃貸マンション業を開業(求償権を放棄し約1年3月経過後に開業)する企画をしていなかったこと及び今後とも、[1]当該マンションに係る収益の好転は見込めないこと、[2]借入金の返済も続くこと等から、同人には支払能力があると認めることはできない。
要旨
保証債務の履行に係る求償権の放棄について、主たる債務者は、[1]設立以来、現在まで事業を継続していること、[2]ここ数事業年度の決算では毎期純利益を計上し、繰越欠損金は減少しており、また、不良債権であるという売掛金も回収不能であると認めるに足る証拠はないこと、[3]請求人以外の者からの借入金は、返済、借入れを繰り返しながら全体に減少し、請求人が求償権を放棄した事業年度においても借入金を返済していること、[4]求償権を放棄した翌事業年度には、請求人に対し新たな貸付けを行っていること等を総合勘案すると、請求人の主たる債務者に対する求償権の放棄について、その行使ができないために行ったものと認めることは相当でない。
要旨
本件保証債務を履行するために譲渡した資産は居住用及び非居住用の二つの使用区分からなっているとしても、同一人に対し同一時期に同一契約により一括して譲渡しており、本件資産の譲渡に係る求償権が行使できない保証債務の履行額及び譲渡費用の額は共通的なものとして支出しているので、これらの金額を、本件資産の居住用及び非居住用の用途別の譲渡代金の比によりあん分するのが相当と認められる。
要旨
請求人は、自己が代表取締役となっている会社の借入金等につき債務保証をしていたところ、同社の業績が悪化し、借入金等の返済が困難となったので、同人所有の土地を譲渡し、その代金のほとんどを同社に提供し、同社はその資金で債務の弁済に充てたものであるから、これは実質的に保証債務を履行するための譲渡に該当すると主張するが、弁済は期限前に行われており、債権者から請求人に保証債務の履行の請求はなく、債権者は請求人から返済を受けたという認識がないので、請求人は譲渡代金を同社に単に貸し付けたにすぎず、本件譲渡は、保証債務の履行のための資産の譲渡とは認められない。
要旨
保証債務を履行するために資産を譲渡した場合、その履行に伴う求償権の行使ができないときには、所得金額の計算上、譲渡がなかったこととする特例が所得税法上規定されているが、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得については、この特例の適用はない。
したがって、本件のように請求人が1,500ヘクタールもの山林を保有し、営利を目的として継続的に山林の伐採譲渡を行っている山林経営者である場合には、山林の伐採譲渡の所得であっても、所得計算の特例の適用はないものとするのが相当である。
所得税法第62条第2項の規定(保証債務)の適用に当たっては、確定申告書等にその適用を受ける旨の記載が必要とされているところ、その記載がないことを理由に棄却した事例
裁決事例集 第61集 235頁
要旨
請求人は、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、所得税法第64条第2項の課税の特例を適用すべき旨主張するが、本件特例は、保証債務を履行するために資産を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなった場合において、[1]求償権を行使することができなくなった事実が確定申告前に生じているときには、確定申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載がある場合、又は、[2]その事実が確定申告後に生じた場合には、当該事実が生じた日から2月以内に、当該事実が生じた日を記載した更正の請求書により更正の請求をする場合に適用を受けることができるものと解される。
これを本件についてみると、求償権の行使が不能か否か明らかでないところ、請求人は、上記[1]及び[2]のいずれの手続もしていないから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用することはできない。
要旨
請求人が、自己所有の土地を譲渡して得た代金により、B農協から自己名義で借り入れた債務を弁済した場合において、同債務の借入れについて、[1]請求人は、農業協同組合法の規定により農業協同組合が組合員以外のものに融資することはできないこととされているため、A法人の設備資金等に充てるための融資を受けるに当たり、自己がB農協の組合員であることから自己名義で借り入れるに至ったこと、[2]請求人は、当該借入金の担保のため本件土地に根抵当権を設定し、その後これを売却しその代金により本件借入金に係る債務を弁済していること、[3]請求人は、借入れ後直ちにこれをA法人に貸し付け、かつ、これに伴い利ざやその他の金利に相当する金銭等を収受していないこと、[4]A法人は、請求人からの借入れについて、B農協から直接借り入れた場合と同様の経理処理をしていることなどの事実が認められる場合には、請求人の前記債務は、請求人がA法人の債務を補償することに代えて自己名義で借り入れた債務というべきであるから、所得税法第64条第2項の規定の適用については、これを同条項にいう保証債務と同等のものと認めるのが相当である。
要旨
本件は、第三者の借入金について、担保として提供した土地を譲渡し、当該借入金の返済に充てたにもかかわらず、当該第三者が所在不明で無財産のため求債権を行使することができなかったものであるが、これは、保証債務を履行し求債権を行使できなかったものとして、その行使することができなかった金額を譲渡所得の金額の計算上なかったものとすることが相当である。
要旨
請求人が長男に係る異常とすべき態様による債務の弁済を4年間にわたり繰り返し行い、かつ、その求償権を放棄することは、通常第三者では到底なし得ないところであり、これをあえて行ったのは、請求人が長男の更生を期待するためにした利益の供与(贈与)というほかはなく、長男に弁済能力がないことを知りながらあえてこれを行ったものであり、所得税法第64条第2項の規定を適用する余地はない。
保証債務の履行に伴う他の連帯保証人に対する求償権については、当該他の連帯保証人は債務超過の状態にあり、求償権の行使は不可能であると認定して、所得税法第64条第2項の適用を認容した事例
裁決事例集 第56集 156頁
要旨
原処分庁は、請求人が本件土地を譲渡したことによる収入金額から主たる債務者に係る保証債務を履行するためにM信用金庫に支払った1,000万円は、Wと共同で保証人となっていることから、Wが負担すべき500万円を請求人が保証債務として履行したとしても、所得税法第64条第2項の規定は適用されない旨主張する。
しかしながら、本件債務の連帯保証人であるWが所有する不動産には、他の債権者により競売開始決定に基づく差押えがされており、他の不動産も相続税評価額を大幅に上回る金額の抵当権が設定されていること等から、Wは債務超過の状況が著しいものと認められ、同人に対する求償権の行使が不可能であると認めるのが相当である。
したがって、請求人が、本件譲渡代金からM信用金庫に保証債務を履行するために支払った1,000万円については、その全額について所得税法第64条第2項の規定の特例を認めるべきである。
保証債務の履行をC銀行からの借入れで行い、その後本件資産を譲渡した後にD銀行から借入れを行ってC銀行に対する借入金を返済した上、分割受領した本件資産の譲渡代金でD銀行に対する借入金を分割返済した場合には、所得税法第64条第2項の適用がないとした事例
裁決事例集 第39集 133頁
要旨
所得税法第64条第2項の規定が適用されるためには、資産の譲渡と保証債務の履行との間に強い因果関係が必要であるというべきであって、保証債務の履行と資産の譲渡とが、たまたま時期を同じくして行われたとしても、保証債務の履行が保証人の譲渡代金以外の資金、信用によって行われたときは、同条項の適用がないものと解すべきであり、ただ、保証債務の履行を求められたため、やむを得ず譲渡代金を受領するまでのつなぎ資金として、一時的に借入金でその保証債務を履行しておき、その後短期間のうちに資産を譲渡して、その譲渡代金をもって遅滞なくその借入金を返済するなど、資産の譲渡と保証債務の履行との間に強い因果関係があると認められる場合にも同条項の適用があるものと解する。
本件については、分割受領した譲渡代金の流れ等からみて、資産を譲渡した後に借り入れた資金は本件土地の譲渡代金を受領するまでの一時的なつなぎ資金であるとは認められず、土地の譲渡と保証債務の履行との間に強い因果関係があるとは認められないから、所得税法第64条第2項の適用はない。
要旨
所得税法第64条第2項に規定する「保証債務の履行」とは、その実質において、債務者の債務等を保証人が肩代わりして弁済することをいうものであるところ、債務者の債務等とは、主たる債務及び主たる債務に従属する利息、違約金等保証債務の履行として債権者に対して弁済しなければならないものをいい、保証人が保証債務を履行するための借入金の利息、抵当権設定費用等債権者以外の者に対して支払ったものは含まれない。したがって、同項に規定する「その履行に伴う求償権」とは、保証債務の履行により同時に生ずる求償権をいうものであって、その求償権の額は保証債務の履行の額と同額であるはずであるというべきところ、民法上、債務の履行のための関連費用についての求償権があるとしても、これらの関連費用の額に相当する金額は同項に規定する「その履行に伴う求償権の額」に含まれると解することはできない。
要旨
本件譲渡は、妻の銀行からの借入金に係る保証債務の履行のためのものであるが、妻は資産を所有しており、求償権の行使ができないこととなった場合に当たらないので所得税法第64条第2項を適用することはできず、また、請求人は、本件譲渡時において所有する資産が負債を上回っており、請求人が資力を損失したとはいえないことは明らかであるから、同法第9条第1項第10号にも当たらない。
要旨
請求人は、保証債務が存在していたことは、[1]本件譲渡の話が進んだ平成3年12月に作成した返済予定表及び返済予定表を基に作成替えした連帯借用証書があること、[2]債権者から貸金の返還訴訟等を提起され判決等を受けたこと、[3]保証債務を借入金7,000万円及び譲渡代金3,700万円で返済したこと及び[4]債権者、主たる債務者等の陳述書等があることからも明らかであり、本件譲渡代金は、その全額が直接保証債務の履行に充てられていないが、最終的には本件譲渡代金が保証債務の履行に充てられており、本件特例が適用されるべきである旨主張する。
しかしながら、[5]返済予定表及び連帯借用証書は、本件土地の譲渡の話が平成5年5月にまとまっていることからすると、いずれも日付をさかのぼって作成されたものであり、その連帯借用証書も保証人欄の氏名が追加記載されるなど、その信憑性に欠けるものであること、[6]判決等は、訴訟が欠席裁判であり本件借入金の存在を実質審理されたものではなく、保証債務の存在を仮装するためのものと認められること、[7]保証債務を履行するための借入金については、その調達先が原処分段階から二転三転しており、その決済を現金と主張するのみで具体的に裏付ける証拠書類がないこと及び[8]関係人のいずれの陳述も具体的な証拠書類に基づくものではないことからすると保証債務が存在していたとは認められない。
したがって、請求人のその余の主張を判断するまでもなく本件特例は適用できない。
要旨
請求人の経営する会社への本件建物及び土地の提供は、当該会社について営業の不振を理由として債務者から和議の申立てがあり、裁判所の認可に係る和議条件において債権者に対する一定金額の債務の弁済につき請求人が保証債務を負うものとされ、その債務の弁済を担保するために行われたものであるから、本件建物及び土地の譲渡は、保証債務を履行するための資産の譲渡で、かつ、求償権の行使ができなかったものに当たることが明らかである。
主たる債務者はいまだ求償権を行使しても回収の見込みのないことが確実な状況にまで立ち至ったとは認められないので保証債務の履行に伴い求償権が行使できない場合に該当しないとした事例
裁決事例集 第32集 86頁
要旨
保証債務の履行に係る求償権の放棄について、主たる債務者は、[1]経営の合理化と銀行側の協力とによって引き続きその事業を継続していること、[2]借入金の残高は年々減少していること、[3]本件求償権を放棄した直後の決算期には利益金を計上していること、[4]債務免除を受けたのは本件求償権だけであることなどから、請求人が求償権を行使しても直ちにこれに応ずることができない状況にあったとしても、いまだ求償権を行使しても回収の見込みのないことが確実な状況にまで立ち至ったとは認められないので、本件求償権の放棄はその行使ができないために行ったものと認めるのは相当でない。
要旨
所得税法第64条第2項に規定する「保証債務の履行」とは、その実質において主たる債務及び主たる債務に従属する利息、違約金、損害金等を保証人が肩代わりして弁済することと解すべきであって、保証債務の履行に関連して支出した訴訟費用、弁護士費用及び不動産鑑定料については、民法上求償権の行使ができるとしてもそのことをもって同条項にいう求償権と同一に解されなければならないというものではなく、それらに係る求償権を同条項にいう「その履行に伴う求償権」の額に含めることはできない。
物上保証人である請求人が債務額を代位弁済した場合の所得税法第64条第2項の規定の適用上、物上保証人である請求人は代位弁済額のうち自己の負担割合を超える部分について連帯保証人に対して求償権を取得し、連帯保証人のうち償還をなす資力のないものがある場合においても、その償還資力がない者の負担部分も他の連帯保証人の間で分割負担されるものとして、求償権行使可能額を計算すべきであるとした事例
裁決事例集 第41集 160頁
要旨
物上保証人であった請求人は、その所有する土地を譲渡し、その譲渡代金をもって保証債務額35,392,179円を代位弁済したとして、その弁済額全額について所得税法第64条“保証債務の履行のための譲渡の場合の課税の特例”第2項の規定を適用すべきであると主張するが、本件金銭消費貸借には、物上保証人のほかに連帯保証人が三名存し、物上保証人である請求人と連帯保証人との間には保証に際しての負担部分の特約が存在しないことから、物上保証人・連帯保証人相互間においてはその頭数に応じて平等に負担することになり、請求人は代位弁済額のうち自己の負担割合である4分の1に相当する部分を超える部分について連帯保証人に対して求償権を取得し、そして、連帯保証人のうちに償還をなす資力のない者がある場合においても、その償還資力がない者の負担部分も他の連帯保証人の間で分割負担することとされているから、結局、請求人の求償権行使可能額は、代位弁済額35,392,179円のうち自己の負担部分である4分の1に相当する額8,848,044円を控除した残額26,544,135円とするのが相当であり、同金額については保証債務の履行のための譲渡の場合の課税の特例の規定の適用はない。
要旨
原処分庁は、甲土地及び乙土地のそれぞれの譲渡代金の比によって保証債務が履行されたと主張するが、乙土地とともに甲土地を一つの契約により同一人に対して一括譲渡したのは、譲受人の都合により、乙土地のみでは売却できなかったという特殊事情によるものであること、また、主たる債務者に係る和議条件によれば、乙土地の譲渡代金で本件保証債務を弁済するものとされていることから、本件保証債務は、乙土地の譲渡代金より履行されたものとみるのが相当である。
主たる債務者が会社であるか、会社の代表者であるかが借用書上定かでない借入れについて、債権者が弟達で、借入れに事情があることや会社の経理等の念査から、本件借入れの債務者は会社で、会社の代表者がこれを保証したものと認定し、所得税法第64条第2項の適用を認めた事例
裁決事例集 第45集 110頁
要旨
借入れは会社の資金の確保のためであること、仮領収書は会社から債権者である弟達に発行されていること、借入金に係る利息も会社から債権者に支払われていること、同一債務に係る借用書が4通あるがいずれが事実のものか、あるいはいずれも虚偽のものか判断し難いことからすると、借用書が会社の代表者である被相続人の名義で発行されていることを根拠に主たる債務者は被相続人であるとする原処分庁の主張は採用できず、そうすると、主たる債務者は実質的に会社とみるのが相当である。
債務の保証について、債権者から、債権者と被相続人との間で「U町の土地」を担保とする保証契約をした旨の答述があり、これは、4通の借用証のうちの2通にU町の土地を担保にする旨の記載があることと符合し、当事者の真意が認められる。このことから、債権者と被相続人の間には本件債務に関して被相続人が保証する旨の合意が成立していたと認めるのが相当である。
要旨
請求人と共同保証人の地位にある長男は、継続して会社の取締役の職にあるほか、他の会社にも勤務して相当の収入を得ており、これに同人の妻が得ている給与収入を加えると、生活費を賄う資力もないほど困窮していたとは認められず、また、長男の財産関係をみると債務超過の状況にあり、その債務の返済も相当長期にわたることが認められるものの、その債務の内容及び返済の状況などを個別にみると、結果として財産が皆無になるなどの特別の事情が生ずるとは認められず、将来においても長男が請求人の求償に応じる見通しが立たないとまでいうことはできないから、当時求償権を行使しても回収できる見込みがないことが確実な状況に至っていたとは認めることはできない。
譲渡代金によって弁済したのは自己の債務であって、保証債務ではないとして、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の特例の適用を認めなかった事例
裁決事例集 第60集 315頁
要旨
請求人は、本件土地の譲渡代金で返済した借入金について、主たる債務者名義は請求人となっているが、借入金を費消したのも、弁済していたのも請求人の長男であり、実質的な主たる債務者は長男であるから、本件土地の譲渡は保証債務を履行するために行われたものであると主張するが、[1]金銭消費貸借証書上、主たる債務者は請求人となっていること、[2]請求人の長男自身が主たる債務者となることも可能であったのに、そうしていないこと、[3]債権者は請求人に対して貸し付けたものであると答述していることから、この借入金は、請求人が主たる債務者であると認められる。したがって、本件土地の譲渡代金から返済したのは自己の債務であって、保証債務の履行による弁済ではないので、所得税法64条2項の規定を適用することはできない。
本件各土地の譲渡代金は主債務者に運転資金として貸し付けられ、主債務者が当該資金をもって本件各債務を弁済したものと認められるから、本件各土地の譲渡所得につき、所得税法第64条第2項に規定する保証債務の特例を適用することはできないとした事例
裁決事例集 第67集 383頁
要旨
請求人は、本件各土地の譲渡代金は、主たる債務者を経由して本件各債務の弁済に充てられているが、実質的には、請求人が連帯保証人として本件各連帯保証債務を弁済したものであり、本件各土地の譲渡は保証債務の特例の適用要件を備えていると主張するが、[1]請求人は、主たる債務者に対して本件各弁済の額を超える資金を提供していること、[2]当該超える金額について、主たる債務者は、人件費、役員給与等の支払に充てていること、[3]債権者から請求人に保証債務の履行の請求はなかったことなど、本件各弁済の形態等からすると、請求人は、譲渡代金の一部を主たる債務者に貸し付け、主たる債務者が当該資金をもって本件各債務を弁済したとみるのが相当であり、本件各弁済を請求人による保証債務の履行と評価することはできない。
物上保証人と連帯保証人とを兼ねる者が債務者のために自己の出えんをもって債務を弁済した場合には、当該弁済がいずれの地位に基づくものであるかにかかわらず、他の連帯保証人に対して求償権を取得するものであり、請求人が弁済した債務額のうち、当該他の保証人に対する求償権の行使可能額に対応する部分の金額については所得税法第64条第2項の規定の適用はないとした事例
裁決事例集 第37集 87頁
要旨
請求人は、本件債務の弁済は、連帯保証人兼物上保証人である請求人が物上保証人としての地位に基づいてしたものであるから、他の2名の連帯保証人に対しては求償権は発生せず、また、仮に、請求人による本件債務の弁済が連帯保証人としての保証債務の履行に当たるとしても、両名の連帯保証は債権者の要請により単に名義を借用した形式的なものであるから求償権の生ずる余地はなく、したがって、請求人が弁済した債務額の全額について所得税法第64条第2項の規定の適用を認めるべきであると主張するが、一般に物上保証人と連帯保証人を兼務する者が債務者のために自己の出えんをもって債務を弁済した場合には、当該弁済がいずれの地位に基づくものであるかにかかわらず債権者に代位し、求償権を取得するものであり、また、債権者に差し入れている保証約定書に請求人のほか両名が連帯保証人として署名捺印し本件債務を保証している以上、両名が形式的な連帯保証人である旨の請求人の主張には理由がなく、そして、両名の負担部分について特約が存在したことを認めるに足りる証拠がないから両名の負担部分は平等であり、かつ、両名は相当の資産及び所得を有するため支払能力は十分であって、両名に対するその負担部分に係る求償権の行使は可能と認められ、したがって、請求人が弁済した債務額のうち、請求人の負担部分に対応する金額を超える部分の金額については、所得税法第64条第2項の規定の適用はない。
ポイント
本事例は、所得税法第64条第2項に規定する保証債務の特例の適用要件の一つである譲渡者の保証債務の履行のための資産の譲渡とは、資産の譲渡による収入が保証債務の履行に充てられていたというけん連関係を要求するものであるから、その収入の一部が他の用途に充てられたといった事情が存したとしても直ちに当該要件を欠くことにはならないことなどを明らかにしたものである。
要旨
原処分庁は、請求人の亡父(本件被相続人)による不動産(物件1)の譲渡は、本件被相続人の亡母の相続税の納税資金を捻出するための譲渡であり、その他の不動産(物件2)の譲渡は、その譲渡の時点において、本件被相続人が連帯保証債務を返還するのに十分な資金を既に保有していたので、両不動産(物件1及び物件2)の譲渡はいずれも保証債務の履行のために譲渡したものではないから、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項に規定する特例(保証債務の特例)は適用されない旨主張する。
しかしながら、保証債務の特例を適用するためには、①債権者に対して債務者の債務を保証したこと、②上記①の保証債務の履行のための資産の譲渡であること、③上記①の保証債務を履行したこと、及び④上記③の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことの4つの実体的要件が必要であるところ、上記実体的要件の②は、資産の譲渡による収入が保証債務の履行に充てられたというけん連関係を要求するものと解され、資産の譲渡による収入の一部が保証債務の履行に充てられていないことをもって、直ちに上記②の実体的要件を欠くことになるものではない。また、譲渡者の資産の保有状況は、保証債務の特例の適用要件であるとは解されない。
参照条文等
参考判決・裁決
さいたま地裁平成16年4月14日判決(税資254号順号9625)
債務保証をした事実はないこと及び 譲渡代金が借入金の返済に充てられていないことから、本件土地の譲渡につき、所得税法第64条第2項に規定する保証債務の特例を適用することはできないとした事例
裁決事例集 第77集 111頁
要旨
- 請求人は、C銀行等に支払った1,200万円は主たる債務者をBとする保証債務の履行である旨主張する。しかしながら、請求人は、Q市物件にC銀行等のために抵当権が設定されていることを認識しながらこれを買い受け、売主であるAらに本来支払うべき売買代金1,200万円を、抵当権消滅請求のために、C銀行等に対して支払ったにすぎないから、請求人が、AらのC銀行等に対する債務の保証をした事実はない。
- また、請求人は、本件土地を譲渡し、その譲渡代金で保証債務を履行するつもりであったが、買い手が見つからず直ちに譲渡することができなかったため、やむを得ず本件各借入金と自己資金により保証債務を履行したのであるから、本件譲渡は実質的に保証債務を履行するためのものである旨主張する。
しかしながら、所得税法第64条第2項の規定による特例を適用するためには、①債務の保証をしたこと、②保証債務の履行のために資産を譲渡したこと、③保証債務を履行したこと及び④履行に伴う求償権の全部又は一部が行使することができなくなったことの実体的要件が必要であると解される。請求人は、BのF社に対する債務を連帯保証しているから、F社の債権譲渡先であるG社に対する請求人による支払は、上記の実体的要件の①及び③を充足する。しかし、請求人は、本件各借入金のうちの550万円及び自己資金によりG社に対する代位弁済をしており、本件譲渡は上記代位弁済後になされているから、本件譲渡代金が直接保証債務の履行に充てられたわけではない。したがって、上記の実体的要件の②を充足するというためには、本件譲渡が、実質的にみて保証債務の履行のための資産の譲渡と認められることが必要である。そうすると、本件各借入金のうち550万円は本件保証債務の履行に充てられたものと認められるが、本件譲渡は、本件保証債務の履行から3年以上経過してから行われている上、本件各借入金の返済は、自己資金により行われており、本件譲渡代金が本件各借入金の返済に充てられた事実は認められない。
以上によれば、本件譲渡は、実質的に保証債務を履行するための資産の譲渡であったとはいえず、本件譲渡代金と本件保証債務の履行との間に因果関係は認められないから、上記の実体的要件の②を充足しない。したがって、本件譲渡は「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」には該当しない。
求償権の放棄が、主たる債務者の資産状況、経営状況からみて求償権を行使することができない状況でなされたものとは認められないので、所得税法第64条第2項の適用がないとした事例
裁決事例集 第40集 65頁
要旨
請求人は、債権者集会の決議にも相当する覚書に基づいて、保証債務の履行に伴う求償権を放棄したものであると主張するが、当該覚書は、主たる債務者、請求人及びごく限られた大口債権者2社との間で締結されたものであって、法令の規定に基づく整理手続きによらない債権者集会の協議決定等で合理的な基準により負債整理を定めたものとは認められない。また、主たる債務者は、大口債権者2社の援助を受けているにせよ、自己の有する資産の売却等により欠損金を補てんし現在に至るまで引き続き事業を継続し、しかも、債務超過の額は減少の傾向にあり、請求人が本件不動産を譲渡する直前において既に当期利益を計上している事実からすれば、請求人の求償権放棄時において、主たる債務者は求償権行使不能の状況にあったとは認められないので、所得税法第64条第2項の適用を認めなかった原処分は相当である。
保証債務の履行に伴う求償権放棄の取消通知が、消滅時効の援用により求償権の行使不能となったとしても、所得税法第152条に規定する更正請求ができないとした事例
裁決事例集 第50集 91頁
要旨
請求人は、被相続人が昭和63年3月に行った求償権放棄(債務免除)の通知を平成5年1月に取り消したところ、平成5年6月に主債務者から消滅時効の援用により求償権の行使不能となったのであるから、所得税法第152条の規定により昭和62年分の譲渡所得について更正請求ができる旨主張する。
しかしながら、次の事実からすると、本件求償債権は、被相続人が求償権放棄(債務免除)の通知を行った昭和63年3月で既に消滅していることが明らかであるので、所得税法第152条の規定に該当しないこととなる。したがって、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。
- 被相続人が行った求償権放棄(債務免除)の通知書には、[1]金融機関及び関係者と協議の結果、主債務者であるG社の倒産を回避して事業を継続するために被相続人所有の土地を譲渡して、G社の借入金を弁済した、[2]被相続人がG社に有する求償債権36,076千円のうち、14,500千円を放棄する、[3]この結果、G社の財務体質が改善されると思う、旨記載されていること。
- G社は、昭和63年4月期の事業年度で14,500千円を雑収入に計上するとともに、現在まで事業を継続していること。
- 民法第519条は、債権者が債務者に債務免除の意思表示をしたときは、当該債権は消滅する旨規定し、この債務免除は債権者の一方的な意思表示により成立し、この意思表示は撤回できないと解されていること。
保証債務の特例を適用するに当たり、土地の譲渡代金が主債務者を経由して債務の返済に充てられている場合など、形式的には保証債務の履行といえない場合は、実質的にみて保証債務の履行であることが客観的に明らかであることが必要であるとした事例
裁決事例集 第82集
ポイント
所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例》第2項に規定する保証債務の特例を適用するためには、原則として、その譲渡代金をもって主たる債務者の債務の返済に充てられることが必要であるところ、この事例は、請求人が譲渡した土地の譲渡代金が主債務者の口座に入金された後、同口座から金融機関に返済されるなど、形式的には保証債務の履行とはいえない場合において、実質的にみて保証債務の履行といえるか否かを、土地譲渡の経緯、譲渡代金の流れ、金融機関の処理状況等から判断したものである。
要旨
請求人は、物上保証していた土地の譲渡代金をいったん主債務者の口座に入金したが、その後直ちに当該口座から同額が金融機関に返済されているから、当該返済は実質的に請求人が保証債務を履行したものである旨主張する。
しかしながら、主債務者の口座へ入金された資金は、請求人からの借入金と経理処理された上、主債務者から金融機関へ返済していることから、当該返済は形式的には請求人による保証債務の履行ではなく、これが実質的にみて保証債務の履行であるといえるためには、保証債務の履行であることが客観的に明らかであることが必要であると解されるところ、土地譲渡の経緯、譲渡代金の流れ、金融機関の処理状況等からみて、請求人が保証債務を履行したことが客観的に明らかであったとは認められず、また、主債務者の資力、債務の返済状況等からすると、返済時点において保証債務を履行する必要性が客観的に明らかであったとも認めることができない。
したがって、当該返済は、形式的・実質的ともに請求人による保証債務の履行であるとは認められない。
参照条文等
他人の滞納税額のために不動産が差押えをされ、当該不動産の売却代金がその滞納税額の支払に充てられたとしても、保証契約を締結し、又は抵当権を設定したものではないから、所得税法第64条第2項の適用はないとすることが相当であるとした事例( 平成23年分の所得税の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分、 平成23年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・ 棄却、 一部取消し)
裁決事例集 第94集
ポイント
本事例は、真の所有者が不動産の名義をあえて他人に移転したことから、その他人の滞納税額のために当該不動産が差押えをされ、当該不動産の売却代金が滞納税額の支払に充てられたとしても、虚偽の権利の外観を自ら作出したことが原因であり、民法第94条《虚偽表示》第2項の類推適用により善意の第三者に対して対抗できなくなった結果にすぎないこと等から、所得税法第64条第2項の適用はないと判断したものである。
要旨
請求人は、相続税の延納申請に係る担保として提供した土地(本件各担保土地)について、K国税局長がした差押登記は、請求人の知人が主宰するJ社の租税債権を回収するために、本件各担保土地の所有者である請求人の同意を得ることなく一方的にされたものであり、実質的には、請求人がJ社に支払能力がないと判断して債務保証をしたくないと考えても許されない状態での債務保証と同じであるから、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項の規定の趣旨から救済されるべきである旨主張する。
しかしながら、請求人は、本件各担保土地を取得してから譲渡するまでの間、同土地の真の所有者であったが、請求人の亡父等の多額の債務に係る各債権者の請求を逃れるため、請求人が、同土地の登記名義をJ社に変更して、虚偽の外観を作出していた際に、K国税局長が同土地を差し押さえたことが認められるところ、請求人は、当該差押えにより、本件各担保土地の譲渡代金の中から一定の支払がされるといった不利益を免れないが、この不利益の原因は、請求人が同土地につき虚偽の権利の外観を自ら作出したことにあり、当該権利の外観を信頼した善意の第三者に対して、民法第94条《虚偽表示》第2項の類推適用により、当該権利の外観が虚偽であることについて、対抗することができなくなった結果にすぎない。そして、虚偽の権利の外観を自ら作出した者は、当該権利の外観が虚偽であることを善意の第三者に対抗できないことを十分に予期し得るのであり、かつ、善意の第三者に対抗できないことについて明確な帰責性が認められるのであるから、このような者を、予期に反して求償権を行使することができなくなった場合の保証人と同一の利益状況にあるということはできず、課税上の救済を図る必要性は認められない。また、債権者との契約により債務の履行を強制されるわけではない点において、保証人や担保権設定者と立場を大きく異にしており、所得税法第64条第2項の規定を適用する前提を欠くというべきである。
参照条文等
参考判決・裁決
さいたま地裁平成16年4月14日判決(判タ1204号299頁) 静岡地裁平成5年11月5日判決(訟月40巻10号2549頁) 東京地裁平成元年5月15日判決(裁Web)
請求人らの代理人が譲渡代金の全額を買主から受領した後、代理人から当該代金を回収できないとしても、保証債務の特例は適用できないとして請求人の主張を排斥した事例
裁決事例集 第51集 176頁
要旨
請求人らは、代理人であるE(譲渡土地の共有者)が買主から20億7,500万円の譲渡代金の全額を受領した後、破産宣告を受け、Eから譲渡代金の回収ができなくなったのであるから、担税力を考慮し保証債務の特例を適用すべきである旨主張する。
しかしながら、所得税法第64条(資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例)第1項に規定する「収入金額の全部又は一部を回収することができなくなった場合」とは、売主が買主から譲渡代金の全部又は一部を回収できなくなった場合と解され、また、民法第646条の規定により、受任者は事務処理に当たり受領した金銭等を委任者に引き渡す義務があると解されている。
このことからすると、請求人らは、Eを通じて買主から譲渡代金の全額を受領しているので、保証債務の特例を適用すべきであるという主張には理由がない。
なお、Eが破産宣告を受けた結果、請求人らが同人から譲渡代金を回収できなくなったとしても、それは受領した譲渡代金の使途の問題であって、譲渡代金の回収不能とは別異の事実と解するのが相当である。
【 税務法規集に掲載する法令等の情報に関する注意事項 】
- 本サービスは、デジタル庁が管理するe-Gov法令検索のデータ、国税庁がホームページを通じて提供する通達等の情報および国税不服審判所の公表裁決事例・裁決要旨を利用しています。
- 法律の専門家が分類・整理した情報を元に、プログラムで自動的に法令等を解析し、関連する情報を統合的に閲覧できるように再編集していますが法令等の内容については、明白な誤りや文字種の統一などの形式的な点を除き、変更しておりません。
- 各法令等の施行日等の情報は法令等の名称の横にある マークのボタンからご覧いただけます。また、当該法令の元データにもその情報表示部分からアクセスすることができます。
- 本サービスの提供者は、デジタル庁および国税庁とは関係がなく、またこれらの機関を代表するものでもありません。
- 本サービスの提供者は、表示される情報に誤りがないように努めていますが、利用者による本サービスの利用に関する結果に対して一切の責任を負いません。