裁決事例 相続税の課税価格の計算
代償分割により取得した代償金について相続税の課税価格に算入すべき価額は、代償分割時における代償財産の通常取引される価額と相続税評価額の比により圧縮するのが相当であるとした事例
裁決事例集 第41集 302頁
要旨
代償分割の方法により遺産の分割が行われ、代償財産として金銭が交付された場合、代償財産の交付を受けた者及び代償財産の交付をした者の相続税の課税価格の計算については、[1]相続開始の時と代償分割の時との間に遺産の価額が著しく変動しており、[2]その代償分割が裁判所における審判・調停・和解等により行われ、かつ、[3]代償分割の対象となった財産及びその財産の代償分割の時における通常取引される価額がすでに明らかになっており、その価額を明確に把握することができるときは、その相続開始の時における代償債権の価額を求める方法としては、次の算式によるのが相当である。
| 交付される金銭の額 | × | 当該金銭の交付者が遺産分割により取得した財産で代償分割 の対象となったものの相続開始時の価格(相続税評価額) |
| 当該金銭の交付者が遺産分割により取得した財産で代償分割 の対象となったものの代償分割時の通常取引価額 |
要旨
相続開始時において、本件土地には、他人の債務のために根抵当権が設定され、物上保証に供されていることが認められるところ、本件土地について、債権者が根抵当権を実行したことも、また、その行使を迫ったことも認められず、物上保証人としての債務の弁済もないから、求償権行使不能を理由に、本件土地が全く無価値であるとはいえず、また本件土地の評価額と同額の債務があるということもできない。
要旨
相続財産に含まれる本件土地は、土地区画整理事業区域内に所在しており、換地に係る平均減歩率は25パーセントが見込まれている。
しかしながら、土地区画整理法第89条第1項によれば、「換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等は照応するように定めなけばならない。」と規定されており、従前の宅地の上に存したすべての権利義務が原則として同一の内容をもって換地の上に存続することとされているから、換地処分により減歩される面積に相当する金額が負債性を有するものとは解されない。また、本件相続開始時においては、換地計画の決定もなされていないことから、減歩面積の確定ができる段階ではないことが認められる。
したがって、本件相続開始時において、土地区画整理事業に関連して本件土地について負債性を有する要因の発生する余地はなく、また、現に発生していないことが認められるとした原処分は相当である。
要旨
被相続人の特別縁故者が、家庭裁判所の審判により民法第958条の3の規定による相続財産の分与を受けた場合の相続税の課税時期は、裁判所の審判確定時ではなく、相続開始の日と解すべきである。また、本件財産分与においては、審判確定に至るまで相当長期間を要し、このため弁護士費用等の分与を受けるための諸経費も相当額を要したことはうかがえるが、分与財産の価額は、相続税法第3条の2において「その与えられた時における当該財産の時価に相当する金額」と規定されているから、分与財産の価額の算定における分与を受けるための諸経費を考慮する余地はない。
要旨
- 相続税法第12条第1項第2号の適用について
民法第896条は、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると規定するが、同法第897条第1項において、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継すると規定し、一般の相続財産とは別個に承継されるべきことを規定している。この民法第897条第1項に規定する「系譜、祭具及び墳墓」と相続税法第12条第1項第2号に規定する「墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」とは、その範囲を同じくすると解される。
これを本件についてみると、本件甲土地はK寺の境内地と同様に管理している山林であり、請求人らの祖先を祭祀するための墓所等の尊厳の維持に要する土地として利用されている事実は認められないから、本件甲土地は同号に規定する非課税財産に該当しない。 - 相続税法第12条第1項第3号の適用について
相続税法第12条第1項第3号は、宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者が相続等により取得した財産であることが要件であるところ、請求人らは、本件相続開始日において、請求人らが個人として公益を目的とする事業を行っていた事実は認められないから、本件甲土地は同号に規定する財産に該当するとは認められない。
租税特別措置法第40条は、所得税法第59条の適用による譲渡所得を、一定の要件(受贈者の公益性、事業性等)を満たした場合に非課税とするものであって、また、相続税法第12条第1項第3号は、相続財産が一定の要件を満たした場合に相続税を非課税とする規定であり、各々非課税とする対象が異なり、また各々に規定する非課税となるための要件も異なるのであるから、租税特別措置法第40条の規定をもって、同号の適用を判断することはできない。
要旨
請求人は、相続開始前3年以内の贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算するのは、当該財産に係る贈与税について国税通則法第70条の規定による除斥期間が経過していないものに限ると主張するが、贈与財産の加算に関して、相続税法第19条には、相続開始前3年以内に被相続人から贈与によって取得した財産を相続財産に加算する旨規定されているのみで、その加算される贈与財産に係る贈与税額それ自体につき更正の期間を徒過したものを除く旨の規定がないのであるから、贈与税額の更正についてその制限期間を徒過したか否かにかかわりなく、贈与財産の全額を加算すべき法意と解するほかなく、したがって請求人の主張には理由がない。
要旨
請求人が本件扶養料、学費を支払うこととなったのは、被相続人の生存中から係争中の認知請求の訴えに関連があるとしても、その支払債務は、請求人を被告として被相続人の死亡後に提起された相続権確認等の訴えにおいて職権和解によって発生したものであり、被相続人の相続開始の時に債務として存在していたものとは認められない。
相続開始時において、主たる債務者は返済不能の状況に至っていないので、被相続人の保証債務額は、債務控除の対象にならないとして請求人の主張を排斥した事例
裁決事例集 第52集 113頁
要旨
請求人は、被相続人の保証債務額5億2,259万円は主たる債務者M社及びN社の財産及び損益の状況からみて、相続税法第13条及び第14条に規定する債務控除の対象となる旨主張する。
しかしながら、次のとおり被相続人の相続開始時において、M社及びN社は債務超過の状況と認められるものの、T銀行らに対する弁済遅延もなく、事業閉鎖等の事実も認められないので、当該保証債務額は、債務控除の対象とならないとした本件更正処分は適法である。
- M社及びN社は、[1]被相続人の相続開始時まで債権者であるT銀行らに保証債務額を弁済していたので、催告を受けておらず、また、[2]事業活動を継続しており、事業閉鎖等、強制執行又は会社更生の申立等を受けたことがないこと。
- ところで、相続税法第14条に規定する「確実と認められる」債務とは、債務の存在とその履行が確実と認められる債務と解すべきところ、保証債務は、保証人が当該債務を履行するか否か不確実であるから、原則として「確実と認められる債務」に該当しないが、主たる債務者が弁済不能にあるため保証人が当該債務を履行しなければならない場合で、かつ、当該債務者に求償しても弁済を受ける見込みがない場合には、例外的に「確実と認められる債務」に該当すると解するのが相当である。
- そして、主たる債務者が弁済不能にあるか否かは、破産、和議、会社更生又は強制執行等の手続開始を受け、若しくは事業閉鎖、行方不明等により、債務超過の状態が相当期間継続しながら、他から融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たない等の事情により、事実上債権の回収ができない状況にあることが客観的に認められるか否かによると解するのが相当である。
要旨
被相続人の下で事業に従事していた相続人が、その事業を引き継いだ後において、被相続人が経営していた当時の退職金として相続人及び従業員に支給することとした金員は、被相続人の当時には退職給与規定もなく、かつ、従業員が退職した事実も認められないので、相続開始時における被相続人の債務として確定していたものではないから、当該金員は相続財産から控除できる債務ではない。
被相続人の遺言内容は、遺言書作成時に各人名義であった預貯金等を遺贈する趣旨であるから、同預貯金等を相続開始時までに換価した現金は各名義人に遺贈されたものであると認定した事例
裁決事例集 第82集
ポイント
この事例は、被相続人の遺言書に「不動産以外の財産は請求人及び二男に相続させる。ただし、預貯金等で私の名義になっていないものはそれぞれその名義人の所有である」旨記載されていたことから、このただし書の解釈が問題となったものである。
要旨
原処分庁は、本件遺言書記載の各相続人名義の預貯金等(本件預貯金等)が、本件相続開始日現在では請求人によって換金されて現金として保管されていたという事実の下、本件遺言書は、不動産以外の財産については、請求人及び二男に相続させることを原則とする趣旨であると解される旨主張する。
しかしながら、本件遺言書第4項ただし書には、預貯金等で本件被相続人名義になっていないものは、各名義人の所有である旨記載されているところ、①当該記載及び追加遺言書に「三女がこのお金をおろす時は」と記載されていることからすると、本件被相続人は、本件預貯金等については、各名義人以外の者がこれを換金することは予定しておらず、本件相続開始日まで本件預貯金等がそのまま維持されていることを想定していたものと認められること、②本件預貯金等は、本件被相続人が亡夫から相続したものであり、本件被相続人の意思で各人名義の預貯金等としたものであること、③本件預貯金等の換金は請求人が行ったことであり、本件被相続人は当該換金の事実を知らなかったことを併せかんがみれば、本件遺言書第4項ただし書は、同書作成時に本件被相続人が各人名義で預貯金等としていたものは、換金のいかんにかかわらず、これを各名義人に遺贈する趣旨であると認めるのが相当である。
参照条文等
参考判決・裁決
最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(判時1075号115頁)
要旨
請求人は、本件不動産の取得及び銀行借入れ等は被相続人の委任により行ったものであると主張するが、委任の事実を立証する具体的証拠はなく、また、本件不動産の取得は、不動産の実勢価額と相続税評価額とに開差があることに着目し、被相続人が生前に取得したという事実を形式的に作り上げ、請求人らが被相続人の名義を利用して、不当に相続財産の圧縮を図ることを目的としたものであると認められるのが相当であるから、本件不動産及び本件借入金債務等は被相続人の相続財産・債務とは認められない。
要旨
ビルの賃貸に際し、賃借人から預託を受けた保証金債務は、形式上長期かつ無利息等であるが、それは、本件保証金の利息と本件賃貸ビルの賃貸料の額の一部とを相殺して単にそのように約定されているものであり、実質的には本件保証金債務金額から控除されるべき経済的利益の額はないものと認められるから、単に形式的に無利息等であるからとして債務控除の適用上経済的利益を毎年享受するものとしてその現在価値を控除して当該債務の額を算定することは相当でない。
遺留分減殺請求により、価額弁償金を受領した場合の相続税の課税価格に算入すべき価額は、相続税法基本通達11の2-10(2)に定める要件を充足した場合には、同(2)に定める計算方法を準用して評価することが相当であるとした事例
裁決事例集 第92集
要旨
原処分庁は、請求人が提起した遺留分減殺請求訴訟(本件訴訟)の判決(本件確定判決)において、①価額弁償の対象となった不動産(本件分割対象不動産)は特定されているが、②価額弁償金の額は、価額弁償の時ではなく、相続開始日における本件分割対象不動産の通常の取引価額を基に決定されていることから、相続税法基本通達11の2-10《代償財産の価額》(2)の定めは適用できない旨主張する。
しかしながら、遺留分減殺請求訴訟において、受贈者又は受遺者が遺留分権利者に対し事実審口頭弁論終結前に裁判所が定めた価額により民法第1041条《遺留分権利者に対する価額による弁償》の規定による遺留分の価額の弁償をなすべき旨の意思表示をした場合、相続税法基本通達11の2-10 (2)を準用する際に用いる上記②の「価額弁償の時」とは、「事実審口頭弁論終結の時」と解されるところ、本件確定判決において、本件分割対象不動産の価額につき、「この価額は、請求人提出の相続開始日を価格時点とする不動産鑑定評価書等における価額であり、現時点で、同価額と異なる証拠はないことから、同証拠により価額を認定する」旨判示されていることからすると、本件確定判決において認定された「現時点」の価額は、本件訴訟の控訴審の口頭弁論終結の時を基準日とする価額であると認められ、また、その価額は、その基準日における通常の取引価額であると認められる。そうすると、本件確定判決は、価額弁償の対象となった財産の価額弁償の時における通常の取引価額を基に価額弁償金の金額を決定しているということができるから、相続税法基本通達11の2-10(2)の定めを適用することが相当である。
参照条文等
相続税法第11条の2 民法第1036条、1041条
参考判決・裁決
最高裁昭和51年8月30日第二小法廷判決(民集30巻7号768頁) 平成4年6月22日裁決(裁決事例集No.43・336頁)
遺贈に対して遺留分による減殺請求がなされている場合であっても、各共同相続人の取得財産の範囲が具体的に確定するまでは、受遺者の課税価格はそれがないものとして計算した金額によるとされた事例
裁決事例集 第59集 262頁
要旨
- [1]請求人は、平成9年8月20日、家庭裁判所の遺言の検認の際、「遺言書の筆跡は、遺言者のものだと思います。名下等の印影も、遺言者が使用していた印章によるものに間違いありません。」と陳述していること、[2]請求人は、本件遺言に係る遺贈の放棄をしておらず、他の相続人からされている遺言無効及び相続欠格の主張を争っていること、[3]本件遺言の効力及び相続欠格事由の有無については、他の相続人から裁判外において主張されているにすぎず、訴え等の提起はされていないことを考慮すれば現時点においては本件遺言は有効であり請求人は相続欠格者でないことを前提として、その課税関係を判断するのが相当である。
- 遺留分減殺請求がなされていても、各共同相続人の取得財産の範囲が具体的に確定するまでは、その遺留分減殺請求がなかったものとして課税価格を計算するのが相当であると解され、そのように解しても、取得財産の範囲が具体的に確定した際には、相続税法第32条の更正の請求、同法第30条又は第31条の期限後申告又は修正申告、同法第35条の更正等による是正手段がある以上、不都合はない。
要旨
相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められる債務」とは、被相続人の債務については、相続人が債務を履行することになるものであり、それだけ相続により取得した経済的価値が失われることとなるので、それを控除する趣旨と解されることから、債務の存在及び履行の確実性を意味するものと解される。したがって、相続税の計算上控除できる債務としては、不当利得返還請求に基づく給付訴訟において存在が認められたにすぎない不当利得返還債務の全額ではなく、給付判決によって給付を命じられた額すなわち請求人が履行しなければならない額に限られる。
ポイント
本事例は、共同相続人の間で相続税の取得財産の価額に算入又は控除する遺留分減殺請求に基づく価額弁償金の金額について、相続税法基本通達11の2-10《代償財産の価額》(1)ではなく、同通達(2)に定める方法により計算すべきであると判断したものである。
要旨
原処分庁は、遺留分減殺請求訴訟の和解(本件和解)の際に、共同相続人の間で相続税の取得財産の価額に算入又は控除する価額弁償金(本件価額弁償金)の金額について何らかの合意があったと考えるのが自然であるとして、請求人の相続税の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、相続税法基本通達11の2-10《代償財産の価額》(本件通達)(1)の要件を満たしており、本件通達(2)によるべきとする更正の請求は認められない旨主張する。
しかしながら、訴訟中から申告までの間に直接やり取りをしていた訴訟代理人間において、本件価額弁償金をいくらとして申告するかについて協議がされていないことについては、同人らを含む関係者の答述が一致しており、訴訟中から申告に至るまでの経緯等に照らしても、本件価額弁償金については、その申告額を具体的に協議した事実は認められず、他に申告額についての具体的な協議の事実が認められるような事情もないことからすれば、その協議はなかったと認められるから、本件通達(1)の場合には該当しない。そして、本件価額弁償金の金額は、対象財産が特定され、かつ、本件和解時に合意された当該対象財産の通常の取引価額を基として決定されたものであるから、本件通達(2)の場合に該当するので、請求人の相続税の取得財産の価額に算入する金額は、本件通達(2)に定める方法により計算すべきである。
参照条文等
参考判決・裁決
要旨
被相続人の債務は、団体信用生命保険契約に基づき被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であって、相続人が支払う必要のない債務であるから、相続税法第14条に規定する「確実な債務」に当たらず、相続税の課税価格の計算上債務として控除することはできない。
本件借入金については、その借入れに係る借用証書に債権者の住所、氏名等の主要事項が記載されていない等多くの疑問点及び不自然な点があることから、債務は存在しなかったと認定した事例
裁決事例集 第49集 393頁
要旨
請求人らは、本件借入金1億2千万円は借用証書の筆跡等から被相続人の債務であり、相続財産から控除すべきであると主張する。
しかしながら、[1]本件債務の主張は更正の請求により行われているところ、更正の請求後、本件借入金及び利息を弁済し、借用証書を返却されながら、大切な証拠となるべきその借用証書を自ら破棄していること、[2]遺産分割協議書作成の2か月前に借入金の存在を知らされながら遺産分割協議書に本件借入金の記載がないこと及び[3]借用証書には債権者の住所、氏名等主要事項の記載がないことから、被相続人に帰属する債務として本件借入金が存在したとは認められない。
また、次のことからも被相続人に債務が存在したとは認められない。
- 本件借入金の入金事跡がなく、費消された事跡も判明しないこと。
- 被相続人は本件借入れをしたとされる1か月後に土地譲渡代金339,840,000円を受領しながら、本件借入金の弁済に充てず、その大半の3億1千万円を定期預金として残していること。
- 請求人等の主張する借入年月日と貸主の答述とは異なること。
- 借入利息22,000,000円の算定根拠が不明であること。
- 金融業者の多額の貸付けにもかかわらず、何らの債権保全措置もされていなかったこと。
要旨
- 本件敷金が無利息債務に当たるのは明らかであり、これを承継した請求人らは、当然に通常の利率による利息相当額の経済的利益を本件敷金の返還期までの期間享受するのであるから、その債務控除すべき金額については、敷金の金額から、請求人らが返還期までの間に享受するこの経済的利益の相続開始時の額を控除した金額によるのが相当である。
- 相続税法第22条が債務の評価について相続開始時の現況による旨規定していることからすれば、債務の評価に当たっては、相続開始時において客観的かつ具体的に確認されない事柄を影響させることは妥当ではないのであるから、相続開始日において、賃貸借期間の満了日前に本件契約の終了することが確実と認められる事情が存しない限り、賃貸借期間のうちの残存期間をもってこの経済的利益を算出するのが合理的である。
- 本件敷金のような長期無利息債務の評価に用いる通常の利率は、統一的な指標となり得る長期金利等を基準とし、相続開始時に弁済期までの金利の動向等を考慮して求めるのが相当であるから、他の財産の評価方法とのバランスをも考慮すれば、相続開始月以前10年間の長期国債(10年)の応募者利回りと長期プライムレートの平均値を基礎とし、年5%とするのが相当である。
相続の開始後に認知によって相続人となった者が価額弁償により取得した本件価額弁償金について相続税の課税価格に算入すべき価額は、価額弁償の対象になった財産の価額弁償時における通常取引される価額と相続開始時の価額(相続税評価額)の比により圧縮するのが相当であるとした事例
裁決事例集 第43集 336頁
要旨
民法第910条“分割後の被認知者の請求”に基づく価額弁償の請求の調停により価額弁償金が交付された場合、当該弁償金の交付を受けた者及び交付をした者の相続税の課税価格の計算に当たっては、[1]相続開始時と価額弁償時との間の遺産の価額が著しく変動しており、[2]その価額弁償が裁判所における判決、和解、調停等により行われ、かつ、[3]価額弁償の対象となった財産及びその財産の通常取引価額が既に明らかになっており、その価額弁償時の価額を明確に把握することができる場合は、次の算式により、価額弁償金の額を圧縮計算するのが相当と認められる。
| 価額弁償金の額 | × | 価額弁償金の交付者が遺産分割により取得した財産で代価額弁 償の対象となったものの相続開始時の価格(相続税評価額) |
| 価額弁償金の交付者が遺産分割により取得した財産で代価額弁 償の対象となったものの価額弁償時の通常取引価額 |
要旨
請求人らは、被相続人が代表取締役をしていた会社の株式を元従業員ら10名から贈与により取得した旨主張するが、[1]当該元従業員及びその相続人は、同会社の株主であったとする認識がなく、当該従業員らが当該株式の実質の所有者であったとする資料は見当らないこと、[2]被相続人及び請求人総代は、相続開始前3年以内に当該株式の名義が請求人らに異動したとして会社の関与税理士に通知していることなどを総合すると、本件株式は、被相続人の名義株であって、請求人らは相続開始前3年以内に被相続人から本件株式の贈与を受けたものであると認めるのが相当である。
被相続人が配偶者のために負担した介護付有料老人ホームの入居金は、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当するから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要はないとした事例
裁決事例集 第81集
要旨
原処分庁は、本件被相続人の配偶者(本件配偶者)が介護付有料老人ホーム(本件老人ホーム)へ入居する際の入居金(本件入居金)を本件被相続人が支払ったことについて、本件入居金のうち定額償却部分については、生活保持義務の履行のための前払金的性格を有するものであり、本件配偶者はその履行に係る役務提供を受けていない部分について返還義務があるから、本件被相続人は本件配偶者に対して金銭債権を有している旨主張する。
しかしながら、本件配偶者は、本件被相続人が本件入居金を支払ったことにより、本件老人ホームに入居し介護サービスを受けることができることになったところ、本件配偶者には本件入居金を一時に支払うに足る資産がないこと等にかんがみれば、本件入居金は、本件被相続人がこれを支払い、本件配偶者に返済を求めることはしないというのが、本件被相続人及び本件配偶者間の合理的意思であると認められるから、本件入居金支払時に、両者間で、本件入居金相当額の金銭の贈与があったと認めるのが相当である。加えて、本件配偶者は高齢かつ要介護状態にあり被相続人による自宅での介護が困難になり、介護施設に入居する必要に迫られ本件老人ホームに入居したこと、本件入居金を一時に支払う必要があったこと、本件配偶者には本件入居金を一時に支払う金銭を有していなかったため本件被相続人が代わりに支払ったこと、本件被相続人にとって本件入居金を負担して本件老人ホームに本件配偶者を入居させたことは、自宅における介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であると認められること及び本件老人ホームは本件配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであったことが認められることからすれば、本件入居金相当額の金銭の贈与は、本件においては、介護を必要とする本件配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるものであると解するのが相当である。
したがって、本件入居金相当額の金銭は、相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号に規定する贈与税の非課税財産に当たるから、その贈与が本件相続の開始前3年以内に行われているとしても、同法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》の規定が適用されるものでもない。
参照条文等
要旨
原処分においては、本件借入金は被相続人と受遺者(被相続人の孫)との連帯債務であるとし、その負担割合は被相続人と受遺者とが等分であって、当該借入金につき相続税の課税価格の計算上債務控除すべき金額は、当該借入金の2分の1相当額であるとしているが、一般に連帯債務者間の負担部分は当該債務者の特約(合意)によって定まるのであり、特約がないときは連帯債務により受けた利益の割合によって定まり、なおこれによっても定まらないときは各自が平等の割合により負担するものと解されるところ、本件の場合は、連帯債務者間において負担部分に関する特約は認められないが、当該借入金の運用状況をみると、すべて被相続人が運用し、その運用で得た財産はほとんどが相続財産として申告されており、また、受遺者が運用した事実は認められず、実際に連帯債務により利益を享受したのは被相続人であると認められるから、当該借入金の全額は、被相続人の債務として債務控除するのが相当である。
要旨
請求人は、相続税法第14条《控除すべき債務》第1項に規定する「確実と認められるもの」について、主たる債務者が弁済不能で保証債務の履行が必要であり、保証債務履行後の求償権の行使が不可能であるという条件が相続開始日に現実に存在しているだけでなく、相続開始日における主たる債務者の財産状態や信用能力を客観的に観察した結果、当該条件に該当する事実が潜在的に存在する場合にも、保証債務は同項に規定する「確実と認められるもの」に当たるという解釈を前提に、本件における被相続人(本件被相続人)が代表社員に就任したN社及びQ社(本件各会社)の金融機関からの借入れに係る本件被相続人の各連帯保証債務は、同項に規定する「確実と認められるもの」に当たる旨主張する。
しかしながら、保証債務が相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するのは、相続開始時点を基準として、主たる債務者がその債務を弁済することができないため保証人がその債務を履行しなければならない場合で、主たる債務者に求償しても補填を受ける見込みがないことが客観的に認められる場合に限られることからすると、請求人の同項に規定する「確実と認められるもの」の解釈は、保証債務一般の性質を述べるものであって、正当な解釈とはいえない。本件各会社は、本件被相続人の相続開始日において、債務超過の状況にはなく、また、各金融機関に対して弁済条件に従った返済を行っていることなどからすると、本件各会社が債務を弁済することができないため、保証人である本件被相続人がその債務を弁済しなければならい場合であったとは認められない。
参照条文等
要旨
請求人は、遺産分割の基礎である贈与税及び遺産総額は調停内事実検証を踏まえて必然的に確定されるものであるから、更正処分は遺産分割調停の結果に従って行なわれるべきであり、調停中に行なわれた本件更正処分は違法である旨主張する。
しかしながら、相続税法第55条は、相続税の申告書を提出する場合又は更正若しくは決定する場合において、まだ遺産の分割が行なわれていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法の規定による相続分に従ってその財産を取得したものとして課税価格を計算するものとし、その後において、これと異なる割合で遺産の分割がなされた場合には、その分割の内容に従って課税価格の計算をやり直し、それに基づいて、申告書の提出若しくは更正の請求又は更正若しくは決定をすることができると規定し、また、国税通則法第24条は、納税申告書の提出があった場合に申告書に記載された課税標準等が調査したところと異なるときは、その調査により当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定しており、遺産分割が調停中である場合には相続税の申告書に記載された課税標準等を更正できないとする税法上の規定はない。
本件において、請求人らは、未分割財産につき相続税法第55条の規定に基づいて計算した相続税の申告書を提出しているのであるから、国税通則法第24条に基づいて更正を行なうこと自体何ら支障はなく、本件更正処分は、当初申告書に記載された課税価格及び納付すべき税額が原処分庁の調査したところと異なっていたため国税通則法第24条に基づいて行なわれたものであるから、請求人の主張には理由がない。
1. 書面による贈与契約であってもその契約の効果が真実生じているか否かを実質的に判断するべきであるとした事例 2. 複数の連帯保証人と物上保証人がある場合の負担割合は平等であるとした事例
裁決事例集 第65集 533頁
要旨
- 請求人は、本件不動産について、本件相続開始前に本件公正証書に基づいて請求人の子らが被相続人から生前贈与を受けたものであり、本件相続財産ではない旨主張する。
しかしながら、本件不動産の所有権移転登記手続および使用収益の状況などに照らすと、被相続人は、本件公正証書に基づいて、孫らに対し本件不動産を真に贈与する意思を有していたとは認め難く、孫らも、本件不動産を取得したとする認識があったとは認められない。
また、公正証書を作成した目的が、請求人が主張するように、孫らに対する相続税の節税のための生前贈与にあるとするならば、孫らの親権者である請求人を含めた当事者は、本件不動産についての贈与税の申告が必要であるとの認識を有していたとみるのが自然であるところ、本件不動産に係る贈与税の申告はされていない。
そうすると、本件公正証書は将来の相続税の負担を回避するなど、何らかの意図を持って作成された、実体を伴わない形式的な文書であるとみるのが自然かつ合理的であり、本件公正証書によって被相続人と孫らの間に贈与の合意が成立していたものとは到底認められず、請求人の主張には理由がない。 - 請求人は、本件連帯保証債務について、銀行取引約定書における連帯保証人としての署名・押印は請求人の承諾なく被相続人が無断で行ったものであり、請求人の保証人としての責任はもとより発生しておらず、本件借入金に係る保証人は被相続人一人であるから本件連帯保証債務の全額を債務控除すべきである旨主張する。
しかしながら、銀行取引約定書には請求人の実印が押印されていること、主たる債務者である関係法人の当時の代表者が請求人自身であること、また、請求人は銀行から請求人あてに発せられた催告書に対して異議を述べた形跡がないことなどからみて、請求人は保証人であることを十分に認識していたと認めるのが相当であり、請求人の主張は採用できない。
また、本件借入金については、連帯保証人以外に物上保証人がいることから保証人は3名となり、その負担額は均等であると認められることから、本件相続について債務控除すべき被相続人の保証債務の額は、本件連帯保証債務の額の3分の1とするのが相当である。
無利息の預り保証金及び敷金に係る債務控除額は、その元本価額から、通常の利率による返還期までの間に享受する経済的利益の額を控除した額によるのが相当であるとした事例
裁決事例集 第73集 442頁
要旨
控除すべき債務が弁済すべき金額の確定している金銭債務の場合であっても、その弁済すべき金額が当然に当該債務の相続開始時における消極的経済的価値を示すものとして課税価格算出の基礎となるものではなく、金銭債務について、その権利の具体的内容によって時価を評価するのと同様に、金銭債務についてもその利率や弁済期等の現況によって控除すべき金額を個別的に評価しなければならないのであり、控除すべき債務の金額は必ずしも常に当該債務の金額と一致するものではない。
無利息で預託されている金銭債務(以下「無利息債務」という。)であれば、これを承継した相続人は、通常の利率による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまでの期間享受することになり、その享受する経済的利益の相続開始時における現在価値に相当する額だけ相続又は遺贈により取得した経済的価値の減殺要因が小さくなることから、無利息債務の相続開始時の評価額は、通常の利率と弁済期までの年数から求められる複利現価率を用いて相続開始時現在の経済的利益の額を計算し、無利息債務の元本額からこの経済的利益の額を控除した金額とするのが相当である。
相続人らから本件被相続人への本件各金員の支出は、本件被相続人が相続税対策のために相続人らに贈与を行っていたことなどからすると、相続人らから本件被相続人への贈与であったとみることは困難であるから、本件各金員は、相続人らから本件被相続人に貸し付けられたものと認められるとした事例
裁決事例集 第90集
要旨
原処分庁は、請求人らが主張する、本件被相続人が負っていた請求人らを含む相続人らからの借入金債務(本件各借入金債務)は、相続開始日において存在していない旨主張する。
しかしながら、本件各借入金債務の原資(本件各金員)は、相続人らが支出したものと認められることに加え、当該支出について、相続人らは、本件被相続人が同人の営む病院(本件病院)の建物建築資金等に係る銀行借入を返済するために本件被相続人へ貸し付けたものである旨答述するところ、本件病院は本件被相続人から建物を賃借して営業を行っていたこと、相続人らは本件病院の経営に関わるとともに、本件病院からの報酬で生計を維持していたこと、本件病院の収入は年々減収しており、当該建物の賃借料や当該報酬も引き下げていること、本件被相続人の法定相続人は同人の配偶者又は子である相続人らのみであり、相続人らが本件被相続人の財産及び債務を相続することが予定されていたこと並びに過去において、本件被相続人から相続人ら及び孫らに対し定期的に贈与がされていたことからすると、上記の銀行借入の返済が滞る事態が生じれば、本件病院の維持継続が困難となり、相続人らの生活に直接大きな影響を与えることとなることが容易に想定されることなどから、当該答述内容は相続人らが本件被相続人に対して本件各金員を支出するに至った経緯として自然なものということができる。なお、本件各金員は孫らの進学資金などとして積み立てていたものであること並びに上記の本件被相続人から相続人ら及び孫らに対する定期的な贈与は相続税対策のためのものと推認されることからすると、本件各金員の支出が相続人らから本件被相続人への贈与であったとみるのは困難である。したがって、本件各金員は、相続人らから本件被相続人に貸し付けられたものと認めるのが相当である。
参照条文等
相続税法第13条第1項第1号、第14条第1項 民法第545条、第587条
相続税法第55条にいう「相続分の割合」とは、共同相続人が他の共同相続人に対して、その権利を主張することができる持分的な権利の割合をいうものとした事例
裁決事例集 第69集 235頁
要旨
請求人は、一部分割後の残余の未分割遺産に係る相続税法第55条の適用に当たっては、当該残余の未分割財産に法定相続分の割合を乗じた金額を課税価格に配分すべきであるから、課税価格は更正の請求前のそれを下回ることとなる旨主張するが、民法上、相続分とは、共同相続人の相続財産全体に対する分け前の限度、普通はその割合をいい、相続財産の中の具体的財産ではなく、相続財産全体に対する持分であると解されているから、相続税法第55条の適用に当たっては、共同相続人各人は、他の共同相続人に対し、遺産全体に対する自己の相続分に応じた価格相当分から、既に分割を受けた遺産の価格を控除した価格相当分についてその権利を主張することができると解される。そうすると、残余の未分割遺産が当該主張することができる金額を上回る本件の場合においては、課税価格は更正の請求前のそれと同額となるから、原処分は相当である。
要旨
請求人は、本件定期預金については、相続税法第19条の規定により相続税の課税価格とみなして本件相続税の課税価格に加算しているから、贈与税の課税対象とはならない旨主張するが、同条の規定の趣旨は、相続税法が採用している相続税の累進税率の適用による税負担が、財産を生前贈与することによって軽減されて公平を欠く結果となることを考慮し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を相続税額の計算上、相続財産の価額に加算することにより所要の調整をすることにあると解されるところ、同条第1項の規定により相続税の課税価格とみなされた贈与財産については、贈与税が課税されることが前提とされたものであって、贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算したからといって贈与税の課税関係が消滅するものではない。
本件においては、贈与税の課税が相続税の課税関係より後になされているが、それをもって贈与税の課税の当否に何ら影響を及ぼすものではない。
要旨
相続開始から3年を経過した後に被相続人に係る債務があるとして債権者から貸金の返還請求を訴訟により求められた請求人が裁判上の和解において同人の負担とされた金額につき、これを相続債務として債務控除するように更正の請求をしたが、借入れを立証する証書、借入金の授受、弁済に係る事実等に照らして当該債務が被相続人に帰属したとする確実な証拠は認められないから、当該債務を債務控除の対象にすることはできないとした原処分は相当である。
被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金は、贈与税の非課税財産に該当しないから、当該入居金は相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税価格に加算する必要があるとした事例
裁決事例集 第83集
ポイント
被相続人が配偶者のために負担した有料老人ホームの入居金が贈与税の非課税財産(相続税法第21条の3第1項第2号)に該当するか否かについて、平成22年11月19日裁決(裁決事例集No.81)では非課税財産に該当すると判断したのに対し、本事例は、非課税財産に該当しないと判断したものである。
要旨
請求人は、請求人及び本件被相続人が本件相続開始の約2か月半前に入居した老人ホーム(本件老人ホーム)の入居金(本件入居金)を本件被相続人が支払ったことについて、本件入居金の性質は終身利用権の対価であり、請求人は本件被相続人から終身利用権を死因贈与により取得したことになるところ、終身利用権は一身専属権であって贈与税の対象とはならないから、相続開始前3年以内の贈与として本件相続税の課税価格に加算されない旨主張する。
しかしながら、本件被相続人は、自らに支払義務のない請求人に係る入居金のうちの一部に相当する金額を支払ったものであり、これによって請求人は、入居金全額の支払によって初めて取得することのできる施設利用権を、低廉な支出によって取得したものと認められることからすると、請求人は著しく低い対価で本件老人ホームの施設利用権に相当する経済的利益を享受したものということができ、本件被相続人と請求人との間に実質的に利益の移転があったことは明らかであるから、相続税法第9条により、請求人は、その利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を本件被相続人から贈与により取得したものとみなすのが相当である。また、本件入居金は極めて高額であり、請求人に係る居室面積も広く、本件老人ホームの施設の状況等をかんがみれば、本件老人ホームの施設利用権の取得のための金員は、社会通念上、日常生活に必要な住の費用であるとは認められないから、相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第2号の規定する「生活費」には該当せず、贈与税の非課税財産に該当しない。したがって、贈与により取得したものとみなされた金額は、相続開始前3年以内の贈与として本件相続税の課税価格に加算されることとなる。
参照条文等
参考判決・裁決
被相続人の先代の相続財産の遺産分割について、家裁の調停が成立し、代償分割による代償金を請求人らが受領したことは、被相続人が先代から相続により取得した代償債権を請求人らが本件相続により取得したと解するのが相当であるとした事例
裁決事例集 第55集 452頁
要旨
請求人らは、被相続人の先代の相続財産の遺産分割について、家庭裁判所の調停が成立し、代償分割による代償金を受領したことは、既に本件相続に係る相続税の申告に含め課税された不動産に係る持分権の一部を失う代わりに、先代の共同相続人の一人から代償金を受領したものであるから、代償金は持分権の譲渡代金であって相続財産ではなく、また、これにより生じた所得は、所得税法第9条第1項第15号により非課税となる旨主張する。
しかしながら、請求人らは、本件調停によって被相続人に代位して代償金を取得したのであり、このことは、被相続人が先代から相続により取得した代償債権を、被相続人の死亡を原因として、請求人らが被相続人から取得したと解するのが相当であるので、本件相続開始日における代償債権の価額を評価して、当該価額を本件相続税の課税価格とすることが相当である。
要旨
遺言執行者の指定は、要式行為であって遺言によることを要し、生前において被相続人がA弁護士に遺言の執行を依頼し、かつ、一定の報酬を支払う旨の合意をしたとしても、かかる合意は、遺言執行者の指定を内容とする有償の委任契約としての効力を有しないところ、遺言は、遺言執行者を指定した部分を含め、遺言者の死亡の時に初めてその効力を生ずるのであるから、被相続人がA弁護士との間の合意によって、被相続人が生前において本件債務を負うことはあり得ないというべきである。むしろ、遺言執行者に関しては委任に関する規定が準用され、遺言執行者と相続人の関係は、委任に準じた法律関係により律せられるというべきであるから、本件債務を負担するのは請求人ら相続人であるというべきである。
したがって、本件債務は、被相続人の債務とはいえず、本件債務を請求人が相続により取得した財産の価格から控除することはできない。
原処分庁が配偶者が取得したと主張する財産は、遺産分割協議以前より存在し、当該遺産分割協議で子が取得したものと認めるのが相当であるから、配偶者が相続により取得した財産はなく、相続税法第19条に規定する相続開始前3年以内の贈与加算の適用もないとした事例
裁決事例集 第67集 543頁
要旨
原処分庁は、本件構築物を、第一回遺産分割協議書作成後に新たに発見された財産であるとして、第二回遺産分割協議書に基づき、妻Mが取得したものと主張するが、本件構築物は、[1]第一回遺産分割協議書作成時に明らかに存在していたこと、[2]それぞれの共同住宅に附随した設備等であることから、共同住宅の取得者が併せて取得すると理解するのが相続人の通常の意思と合致するといえること、[3]共同住宅はKが取得し、その不動産賃貸収入を確定申告していることから、本件構築物もKが取得したものと認めるのが相当である。
そうすると、妻Mは、本件相続により相続財産を取得していないことから、相続税法第19条に規定する「相続により財産を取得した者」に該当しないこととなるので、固定資産税及び交換差金相当額を贈与により取得したか否かを判断するまでもなく、妻Mに同条の適用はない。
可分債権である貸付金債権については、可分債権であることをもって分割の対象とならない財産とみるのは相当ではなく、 共同相続人間で実際に分割が行われた場合、 実際に分割が行われないまでも、相続分に応じて取得する旨の共同相続人全員の合意がされた場合、 一部の相続人が可分債権に対する自己の相続分相当の権利を行使した場合など、明らかにその全部又は一部の帰属が確定している場合を除き、他の未分割財産と一体として取り扱うのが相当であるとした事例
裁決事例集 第74集 274頁
要旨
本件は、原処分庁が申告漏れ財産が存在するとして第一次更正処分を行うとともに、遺産の一部未分割の場合には、分割済財産を特別受益と同じように考慮に入れ、いわゆる穴埋方式により課税価格を計算すべきであるとして第二次更正処分を行ったところ、請求人が、①遺産の一部未分割の場合の課税価格は、分割済財産を考慮することなく、いわゆる積上方式で課税価格を計算すべきである、②関係法人に対する貸付金債権(以下「本件貸付金債権」という。)の評価額は○○○○円である等として、原処分の全部の取消しを求めている事案であり、争点は、次の5点である。
① 未分割財産がある場合の相続税の課税価格の計算方法
② 本件貸付金債権の評価額
③ 土地の評価額(広大地評価の適用の有無)
④ 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用の有無
⑤ 第二次賦課決定処分の適否
最高裁判決によれば、相続人が数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときには、その債権は法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を取得するものと解される。
しかしながら、遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをするとされるところ、金銭等の可分債権については、その他の財産の分配における過不足を調整させる意味合いから、一般的には、これらを一体と捕らえた遺産分割が行われているところであり、また、家庭裁判所の実務においても、最高裁判決を前提としながらも、遺産を総合的に分割するためには、預金等を含めた方が合理的であり、その実際的必要性が高いため、預金等の可分債権を遺産分割の対象にしている例が多いと認められる。
このような実体を相続税賦課の観点からみるときは、最高裁判決を前提として相続財産が可分債権であることを考慮に入れてもなお、当該財産をもって分割の対象とはならない財産とみることは相当ではないから、当該可分債権について、①共同相続人間で実際に分割が行われた場合、②実際に分割が行われないまでも、相続分に応じて取得する旨の共同相続人全員の合意がされた場合、③一部の相続人が可分債権に対する自己の相続分相当の権利を行使した場合など、明らかにその全部又は一部の帰属が確定している場合を除き、他の未分割財産と一体として取り扱うのが相当である。
建物売買に伴い被相続人に生じた債務のうち、当該建物の経済的価値を超える部分については、相続税の債務控除の対象となる「確実と認められるもの」には該当しないとした事例
裁決事例集 第123集
ポイント
本事例は、請求人が被相続人と生前締結した建物売買契約(売主:請求人、買主:被相続人)に伴い被相続人に生じた売買代金相当額の債務について、当該債務のうち、当該建物の経済的価値(評価通達に基づき算出された評価額)を超える部分は、いずれ混同により消滅させるべき債務を、いわば名目的に成立させたにすぎず、相続開始日現在における消極的財産価値を示すものとはいえないため、相続税の債務控除の対象となる「確実と認められるもの」には該当しないとしたものである。
要旨
請求人が、被相続人と生前に締結した売主を請求人、買主を被相続人とする建物売買契約に伴い被相続人に生じた売買代金相当額の債務(本件債務)は、真正に成立した処分証書が存在し、法的に履行が強制されることから、その全額が相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当する旨主張するのに対し、原処分庁は、本件債務は履行を予定していないことから、その全額が「確実と認められるもの」には該当しない旨主張する。
しかしながら、本件債務の発生原因となった建物売買契約は、建物の売買金額と相続税評価額との間に生じる差額により相続税の軽減効果が期待できるとの提案があった上で締結されたことからすると、本件債務のうち、売買対象となった建物(本件建物)の経済的価値(評価通達に基づき算出された評価額)に相当する部分については、相続開始日時点における債務としての消極的経済価値を示しているものの、本件建物の経済的価値を超える部分については、いずれ混同により消滅させるべき債務を、いわば名目的に成立させたにすぎないのであるから、相続開始日時点における債務としての消極的経済価値を示すものとはいえない。したがって、本件債務のうち、本件建物の経済的価値に相当する部分については、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するものの、本件建物の経済的価値を超える部分については、「確実と認められるもの」には該当しない。
参照条文等
参考判決・裁決
最高裁昭和49年9月20日第三小法廷判決(民集28巻6号1178頁)
要旨
本件林道工事はP県の補助事業として5か年計画による単年度予算に基づく単年度事業として行われているので、当該林道工事に係る受益者負担金額は、単年度工事請負契約を締結した後に、その請負金額(工事金額)を基に受益者に対して納入通知することによって確定するもので、当該工事の施行決定によって確定していたとは認められない。したがって、相続開始の日までに納入通知が発行されていない本件受益者負担金については、相続税の課税価格の計算上債務控除することはできない。
相続財産の額から控除される債務に関し、貸宅地の立退きの合意は相続開始後であり、請求人は申告上当該宅地を貸宅地として評価していること等から、立退きに係る支払債務は確実と認められる債務に該当しないとした事例
裁決事例集 第47集 403頁
要旨
請求人は、本件和解金は本件土地に係る長期にわたる紛争の和解金で、支払義務は相続開始時に確定していたものであり、確定債務であると主張する。
しかし、被相続人が貸し付けていた土地の借地人の立退きに当たって、同人に支払うこととなった和解に係る支払債務については、[1]支払の合意が成立したのは相続開始後であること、[2]相続開始時点において借地人はいまだ本件土地を立ち退いていなかったこと、[3]当該相続税の申告上、請求人は本件土地を貸宅地として評価していることから、本件和解金は、本件相続開始時点における確実と認められる債務には該当しないと認められ、これを債務控除の対象としなかった原処分は相当である。
借地人に対する立退料支払債務は、確実と認められる債務といえ、債務控除の対象になると認められるが、借地権の引渡請求権(立退料の金額と同額)が相続財産となるので相続税の課税価格は減額されないとした事例
裁決事例集 第57集 429頁
要旨
本件土地については、合意契約により同土地についての賃貸借契約を解除し、借地権を買い戻すことが合意されたのは相続開始より前であること及び相続開始の時点において、合意契約による立退料の全額が未払いであったことがそれぞれ認められる。
そうすると、合意契約による借地権の買戻しの対価としての性格を有するところの立退料は、相続開始の時点までに成立し、それが未払いであり、かつ、当該債務について具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していたというべきであるから、確実と認められる債務に該当するといえる。
一方、被相続人は、本件土地に係る借地権の引渡請求権を有していたと認められ、請求人は、本件土地の底地及び借地権の引渡請求権を相続したものといえる。そして、借地権の引渡請求権の価額は、合意契約において定められた借地権の代価の額(立退料の額)とするのが相当である。
したがって、合意契約による立退料支払債務が債務控除されたとしても、借地権の引渡請求権が相続財産となるので、本件相続に係る課税価格は減額されない。
建物売買に伴い被相続人に生じた債務のうち、当該建物の経済的価値を超える部分については、相続税の債務控除の対象となる「確実と認められるもの」には該当しないとした事例
裁決事例集 第123集
ポイント
本事例は、請求人が被相続人と生前締結した建物売買契約(売主:請求人、買主:被相続人)に伴い被相続人に生じた売買代金相当額の債務について、当該債務のうち、当該建物の経済的価値(評価通達に基づき算出された評価額)を超える部分は、いずれ混同により消滅させるべき債務を、いわば名目的に成立させたにすぎず、相続開始日現在における消極的財産価値を示すものとはいえないため、相続税の債務控除の対象となる「確実と認められるもの」には該当しないとしたものである。
要旨
請求人が、被相続人と生前に締結した売主を請求人、買主を被相続人とする建物売買契約に伴い被相続人に生じた売買代金相当額の債務(本件債務)は、真正に成立した処分証書が存在し、法的に履行が強制されることから、その全額が相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当する旨主張するのに対し、原処分庁は、本件債務は履行を予定していないことから、その全額が「確実と認められるもの」には該当しない旨主張する。
しかしながら、本件債務の発生原因となった建物売買契約は、建物の売買金額と相続税評価額との間に生じる差額により相続税の軽減効果が期待できるとの提案があった上で締結されたことからすると、本件債務のうち、売買対象となった建物(本件建物)の経済的価値(評価通達に基づき算出された評価額)に相当する部分については、相続開始日時点における債務としての消極的経済価値を示しているものの、本件建物の経済的価値を超える部分については、いずれ混同により消滅させるべき債務を、いわば名目的に成立させたにすぎないのであるから、相続開始日時点における債務としての消極的経済価値を示すものとはいえない。したがって、本件債務のうち、本件建物の経済的価値に相当する部分については、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するものの、本件建物の経済的価値を超える部分については、「確実と認められるもの」には該当しない。
参照条文等
参考判決・裁決
最高裁昭和49年9月20日第三小法廷判決(民集28巻6号1178頁)
被相続人が米国f州にジョイント・テナンシーの形態で所有していた不動産について、生存合有者(ジョイント・テナンツ)が取得した被相続人の持分は、みなし贈与財産に該当し、相続税の課税価格に加算されるとした事例( 平成21年12月相続開始に係る相続税の過少申告加算税の変更決定処分、 平成21年12月相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、 平成21年12月相続開始に係る相続税の過少申告加算税の各賦課決定処分・ 全部取消し、 一部取消し、 棄却)
裁決事例集 第100集
要旨
請求人らは、ジョイント・テナンシーの形態により被相続人が米国f州に所在する不動産(本件不動産)について有する持分は、我が国における共有財産ではないから、相続税の課税価格に算入されるべきものではない旨主張する。
しかしながら、被相続人及び請求人P2がジョイント・テナンシーの形態で所有している本件不動産については、ジョイント・テナンツ(合有者)の一人である被相続人が死亡したことにより、その権利は、相続されることなく、生存者への権利の帰属(サバイバー・シップ)の原則に基づいて、残りのジョイント・テナンツである請求人P2の権利に吸収されたものと認められる。そして、サバイバー・シップの原則により請求人P2の権利が増加した時に対価の授受があった事実は認められないから、生存者である請求人P2は相続税法第9条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合―その他の利益の享受》に規定する「対価を支払わないで利益を受けた場合」に該当すると認められるところ、この権利の増加は、同条により、請求人P2が被相続人から贈与により取得したものとみなされる。さらに、この権利の増加につき、請求人P2には、相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項が適用されることとなる。したがって、被相続人がジョイント・テナンシーの形態で所有する本件不動産の持分については、請求人P2が被相続人から贈与により取得したものとみなされ、本件不動産の価額の2分の1に相当する部分の金額については、相続税の課税価格に加算すべきものと認められる。
参照条文等
参考判決・裁決
静岡地裁平成19年3月23日判決(税資257順号10665)
遺産分割協議において寄与分に応ずる財産が具体的に定められるとともに、一部の財産が協議の対象から漏れていた場合において、相続税法第55条の規定により相続税の課税価格をいわゆる穴埋方式で計算するときには、当該寄与分に応ずる財産の価額は各共同相続人の未分割財産の取得可能額の計算の基礎となる財産の価額から除外されるとした事例
裁決事例集 第75集 546頁
要旨
相続税法第55条においては、民法の規定による相続分の割合について、同法第904条の2を除く旨規定しているが、その趣旨は、寄与分は、具体的には共同相続人間の協議又は家庭裁判所における審判によって初めて明らかになるのが一般的であることから、遺産が未分割である場合には寄与分も具体的に定まっていないことが多いことを踏まえ、相続税法第55条に規定する相続税の課税価格の計算ができなくなることを防ぐことにあることからすれば、同条の規定は、寄与分に応ずる取得財産が具体的に定められている場合について、これを相続分の算定に反映させることを排除する趣旨とまで解することはできない。また、同条にいう「相続分の割合」とは「共同相続人が他の共同相続人に対しその権利を主張できる持分的な権利の割合」をいうところ、先行する遺産分割により、寄与分に応ずる取得財産が具体的に定められている場合には、当該取得財産額については、穴埋方式による共同相続人の未分割財産の取得可能額の計算の基礎となる財産の価額から除外される(ただし、当該除外された寄与分に応ずる取得財産額は、寄与相続人の課税価格に加算されて、同人の具体的な課税価格が算定されることになる。)と解しても、共同相続人が他の共同相続人に対してその権利を主張できる持分的な権利の割合を適正に計算することの妨げとはならないとともに、それは寄与分に関する民法の定めや共同相続人の意思にも沿うものであり、その解釈は、同条の趣旨に照らしても合理的なものというべきである。
そうすると、本件相続において共同相続人の寄与分として具体的に確定している財産の価額は、穴埋方式による未分割遺産に係る各共同相続人の取得可能財産額の計算の基礎となる財産の価額から除外して計算するのが相当である。
請求人が、被相続人の財産から親族に支払った金員は、相続開始後に成立した贈与契約に基因するもので、相続開始の際に現に存する確実な債務ではないとした事例
裁決事例集 第61集 560頁
要旨
請求人は、1億円の贈与義務(「本件債務」という。)は相続開始の際に現に存する債務であり、相続税の課税価格の計算上控除すべき金額であると主張する。
しかしながら、贈与債務が、相続税の課税価格の計算上債務として控除するための要件を充たすには、相続開始までにその贈与債務の基礎となる贈与契約が成立しており、かつ、相続開始のときに債務者(贈与者)につきその債務の履行が義務づけられる未履行の贈与債務であることが必要であるところ、本件においては、相続開始の時点においては、被相続人と受贈者の代理人との間で交渉が終了していたとはいえず、相続開始後に取り交わされた基本合意書をもって贈与額が確定し、これにより贈与契約が成立したものと認められることから、本件債務は相続開始の際に現に存する確実な債務には該当しない。
遺産分割協議時に、共同相続人間で分割協議対象財産として認識されていない財産があった場合には、遺産分割協議書に「本書に記載のない財産は特定の者に帰属する」旨の記載があったとしても、当該財産は未分割財産とみるのが相当であるとした事例
裁決事例集 第84集
ポイント
遺産分割協議書には、「本書に記載のない財産は特定の者に帰属する」旨の記載が一般的に見受けられるところであるが、本事例は、遺産分割協議書に当該記載はあるものの、被相続人からの贈与契約が履行されていない財産については、遺産分割協議時点において共同相続人間で分割協議対象財産として認識されていないから、未分割財産であると判定したものである。
要旨
請求人らは、本件被相続人がその預金原資を出捐した請求人らの名義の各定期預金(本件各定期預金)について、本件各定期預金に係る証書が本件被相続人の生前にそれぞれ各名義人へ手渡された時点で、本件被相続人からの贈与の履行が完了しているから、相続財産とはならない旨主張する。
しかしながら、確かに、本件被相続人と請求人らとの間で、本件各定期預金に関する書面によらない贈与契約がそれぞれ成立したものと認められるものの、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは当事者がいつでもこれを取り消すことができることから、その履行前は目的財産の確定的な移転があったということはできないので、この場合の贈与の有無、すなわち、目的財産の確定的な移転による贈与の履行の有無は、贈与されたとする財産の管理・運用の状況等の具体的な事実に基づいて、総合的に判断すべきである。
これを本件についてみると、定期預金を自由に運用するためにはその届出印が必要となるところ、本件各定期預金の届出印は、その保管状況・使用状況・各名義人の当該届出印に対する認識及び本件各定期預金に係る証書の改印状況などを勘案すると、相続開始時点においても本件被相続人が引き続き管理していたものと認められることから、本件各定期預金について、本件被相続人から各名義人へ確定的な移転があったとまではみることができない。したがって、本件各定期預金は、贈与によって請求人らが取得したものとは認めることができず、相続税の課税財産に該当する。
ただし、本件各定期預金は、遺産分割協議書に記載がなく、同書には「本書に記載のない遺産はすべて請求人Gが取得する」旨記載されているものの、請求人らの間において、当該遺産分割協議の時点で遺産分割対象財産として認識していなかったと解されることから、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》に規定する未分割財産であるとみるのが相当である。
要旨
- 本件取得不動産には、被相続人に対する損害賠償請求権を保全するための仮差押えがされているのみであって、本件相続開始日現在、本件債務に係る留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権は成立しておらず、したがって、本件債務は、相続税法第13条第2項第2号に掲げる「その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権」によって担保される債務には該当しない。
なお、請求人は、相続税法第13条第2項第2号の規定は、制限的ではなく、実質的に解釈して拡大適用する余地があり、本件債務は、本件取得不動産が仮差押えされ、弁済を迫られた結果としての債務であり、同号に掲げる債務と同様の負の効果を有しているのであるから、同号を拡大適用すべき旨主張するが、相続税法第13条第2項の規定は、制限納税義務者が相続又は遺贈により取得した財産から控除できる債務を限定的に列挙したものであるから、同項第2号の規定は、拡大適用すべきでなく、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
また、本件債務は、請求人がG社に対して支払義務を認めた被相続人の損害賠償債務であることから、本件取得不動産に係るその財産の未払取得代金、未払修繕費及び未払管理人賃金などその財産の取得、維持又は管理のために生じた債務には当たらず、相続税法第13条第2項第3号に掲げる債務にも該当しない。
請求人は、本件債務は、仮差押えされた本件取得不動産を財産として維持するための債務であり、同項第3号に掲げる債務に該当する旨主張するが、同号に掲げる債務とは、その財産の未払取得代金、未払修繕費及び未払管理人賃金など、その財産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務をいうものであるところ、本件債務は、本件取得不動産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務とは認められないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。 - 本件弁護士費用の内訳は、①「本件損害賠償請求権査定申立の件」、②「債務弁済契約公正証書作成の件」及び③「不動産売却に関するアドバイス」に関するものであり、本件取得不動産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務とは認められないことから、相続税法第13条第2項第3号に掲げる債務には該当しない。
なお、請求人は、本件弁護士費用は、被相続人が生前に、自己の財産を維持し、保全するために要した費用に係る債務であり、請求人にとっても、同様に、相続した本件取得不動産を完全に自己のものとして維持し、保全するためのいわゆるひも付の債務であるから、仮差押えされた本件取得不動産を財産として維持し、保全するために生じた債務であり、相続税法第13条第2項第3号に掲げる債務に該当する旨主張するが、同号に掲げる債務とは、その財産の未払取得代金、未払修繕費及び未払管理人賃金など、その財産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務をいうものであるところ、本件弁護士費用は、本件取得不動産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務とは認められないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
要旨
請求人は、請求人以外の相続人が相続財産を隠蔽したことにより、相続財産はほとんどないものという誤った認識に陥った上、当該認識に基づき、遺産分割協議に合意(本件遺産分割協議)したものであるから、本件遺産分割協議は無効である旨主張する。
しかしながら、請求人の主張は、本件遺産分割協議において表示された法的効果を発生させようとする意思(効果意思)を形成する前段階の理由(動機)の錯誤をいうものと解されるところ、請求人が、遺産分割協議書の原案を作成し、遺産分割協議の成立後に判明した相続財産については一定の分割割合で各相続人が取得する旨の条項を加えるよう申し出たことから、本件遺産分割協議に係る遺産分割協議書にその旨の記載がなされたのであり、後に判明した相続財産の価額によっては、当該分割割合や本件遺産分割協議そのものを見直すなどの本件遺産分割協議に係る合意を留保する旨の特段の定めも設けられていないことからすると、請求人は、本件遺産分割協議の成立後に相続財産が判明する事態があり得ることを想定していたと認められ、相続財産はほとんどないものという認識に陥っていたとはいえない。したがって、本件遺産分割協議の成立後に、相続財産が判明したとしても、本件遺産分割協議への合意に至る動機に錯誤はないので、本件遺産分割協議が無効とは認められない。
参照条文等
民法第95条
未分割遺産に係る相続税の課税価格の計算は、いわゆる穴埋方式によるべきであるとした事例(平成22年5月相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却)
裁決事例集 第99集
要旨
請求人らは、預貯金等の未分割財産(本件未分割財産)について、本件には請求人ら以外の相続人が本件未分割財産及びこれから発生する収益の全てを支配、独占しているなどの個別的事情があることから、相続税法(平成23年法律第82号による改正前のもの)第55条《未分割遺産に対する課税》に規定する課税価格の計算は、各共同相続人が未分割の財産に対する自己の相続分に応じた価額相当分を取得したものとして計算する方法、すなわち、積上方式によるべきである旨主張する。
しかしながら、相続財産の一部が分割された場合、そのことによって、相続財産全体に対する各共同相続人の法定相続分の割合が変更されることはないから、各共同相続人は、他の共同相続人に対し、相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した価額相当分についてその権利を主張することができる。そうすると、相続税法第55条に規定する「民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算する」とは、各共同相続人が相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した残りの価額相当分を取得したものとして計算する方法、すなわち、穴埋方式により課税価格を計算すると解するのが相当である。
参照条文等
相続税法(平成23年法律第82号による改正前のもの)第13条、14条、55条
参考判決・裁決
最高裁平成5年5月28日第三小法廷判決(裁web) 東京地裁平成17年11月4日判決(税資255号順号10194)
相続税法基本通達13-3ただし書の定めにより、他の共同相続人の債務等超過分を請求人の課税価格から控除するためには、債務等超過分を控除することが可能な者の合意が必要であるとした事例
裁決事例集 第79集
要旨
請求人は、相続税法基本通達13-3ただし書は、債務等超過分を控除するに当たって共同相続人全員の合意が必要であるとは定めていないから、請求人の更正の請求における課税価格の計算上、債務等超過分を控除すべきである旨主張する。
しかしながら、当該通達は、共同相続人が法定相続分の割合に応じて負担することとした場合の債務及び葬式費用の金額が相続により取得した財産の価額を超えることとなる場合において、その債務等超過分を他の共同相続人の相続税の課税価格の計算上控除することとして申告があったときは、これを認める旨定めているところ、共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合、それぞれが任意に債務等超過分を自己の相続税の課税価格の計算上控除して申告できるとすれば、債務等超過分が重複して控除されることも想定されることになり妥当でなく、当該通達がそのような事態まで許容する趣旨でないことは明らかであり、また、先に申告した者のみ控除が認められるとすることも公平性に欠け、妥当でない。
したがって、債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合には、これらの者の間において、債務等超過分をどのように配分するかについての調整・合意がなされていることが前提になっていると解するのが相当であるところ、請求人は、債務等超過分を控除することが可能な他の共同相続人の合意を得ていないから、請求人の更正の請求における相続税の課税価格の計算上、他の共同相続人に生じた債務等超過分を控除することはできない。
参照条文等
ポイント
本事例は、遺産の全部を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言が相続分の指定としての性質を有するとの解釈を前提に、請求人に指定された相続分は全部であるとの認定の下、葬式費用の負担額について認定したものである。
要旨
原処分庁は、本件相続における葬式費用(本件葬式費用)は、請求人以外の相続人により支払われていることから、当該相続人の課税価格の計算上控除すべきである旨主張する。
しかしながら、相続税法第13条第1項《債務控除》は、相続又は遺贈により取得した財産について課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人に係る葬式費用等のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定し、相続税法基本通達13-3《その者の負担に属する部分の金額》は、その者の実際に負担する金額が確定していないときは、民法第900条《法定相続分》から902条《遺言による相続分の指定》までの規定による相続分又は包括遺贈の割合に応じて負担する金額とする旨定めているところ、本件葬式費用については、請求人と当該相続人との間で負担額が確定しておらず、遺言により請求人の相続分が指定されていることから、当該指定された相続分に応じ、その全額を請求人の課税価格の計算上控除するのが相当である。
参照条文等
参考判決・裁決
最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決(民集63巻3号427頁)
ポイント
本事例は、請求人甲が受贈した現金に係る贈与者について、当該現金の原資、被相続人の配偶者から請求人甲へ贈与した旨記載された「贈与契約書」は事後的に作成されたものと認められることなどから、被相続人の配偶者ではなく、被相続人であると判断したものである。
要旨
請求人らは、請求人甲が受贈した現金(本件現金贈与)に係る贈与者は、被相続人ではなく、被相続人の配偶者(本件配偶者)であり、本件現金贈与に係る贈与契約は、本件配偶者と請求人甲との間で成立していたものである旨主張し、当該主張に沿う証拠として、本件配偶者から請求人甲へ贈与した旨記載された「贈与契約書」と題する書面(本件書面)を当審判所に提出した。しかしながら、①請求人甲の預金口座に入金された本件現金贈与に係る原資は、被相続人の固有の財産である預金口座から出金された現金であること、②被相続人は、本件現金贈与に係る現金を贈与する旨の明確な意思を有していたこと、③本件書面は、本件現金贈与に際して作成されたものではなく、事後的に作成されたものと認められることなどからすれば、本件現金贈与に係る贈与者は、被相続人であり、本件現金贈与に係る贈与契約は、被相続人と請求人甲との間で成立していたものと認められる。
特定贈与者である被相続人(本件被相続人)より先に死亡した同人の長女(本件長女)の配偶者について、失踪宣告を受けた事実はないこと等から、当該配偶者は、本件長女の有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件長女が特定贈与者から贈与により取得した相続時精算課税の適用財産の価額は相続税の課税価格に加算されることとなると判断した事例(令和2年5月相続開始に係る相続税の更正処分・棄却)
裁決事例集 第137集
ポイント
本事例は、本件長女の配偶者は、失踪宣告を受けた事実はないことから、本件長女及び本件被相続人の相続開始日において生存していたことが推定され、また、本件長女の除籍謄本には離婚の事実の記載がないことから、本件長女の配偶者は本件長女の相続開始日において同人の相続人に該当することとなり、本件長女の有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継するとしたものである。
要旨
請求人は、相続税法第21条の9《相続時精算課税の選択》に規定する特定贈与者である本件被相続人より先に死亡した同人の長女(本件長女)の配偶者について、①生存し、本件長女の相続人であることを原処分庁は立証しておらず、②不在者財産管理人の選任に係る審判をしたK家庭裁判所は、本件長女の配偶者が生存している事実を証明したわけではなく、真に相続人であることを判断しているわけではないのであるから、本件長女が有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を本件長女の配偶者は承継せず、相続時精算課税の適用財産(本件贈与財産)の価額は本件被相続人の相続に係る相続税の課税価格に加算されない旨主張する。
しかしながら、民法が不在者の生存を推定してその者の財産管理制度を用意し、他方で生死不明者を死亡したものと確定する失踪宣告制度を用意していることに鑑みると、失踪宣告がなされない限り生存が推定されると解するのが相当であり、本件長女の配偶者が失踪宣告を受けた事実はないことからすると、同人が本件長女及び本件被相続人の相続開始日において生存していたことが推定され、また、本件長女の除籍謄本には離婚の事実の記載がないことから、本件長女の配偶者は本件長女の相続開始日において同人の相続人であったといえる。したがって、本件長女の配偶者は、本件長女の有していた相続時精算課税の適用に伴う権利義務を承継し、本件贈与財産の価額は本件被相続人に係る相続税の課税価格に加算されることとなる。
参照条文等
参考判決・裁決
名古屋地裁平成3年5月29日判決(税資183号837頁)
被相続人の生前に解除された借地契約の約定により請求人らが負うこととなった建物を収去して土地を明け渡す債務は、相続開始日に現に存し、その履行が確実であったと認められるから、債務控除の対象となると判断した事例
裁決事例集 第112集
ポイント
本事例は、被相続人の生前に解除された借地契約の約定により請求人らが負うこととなった建物を収去して土地を明け渡す債務は、相続開始日に現に存し、その履行が確実であったと認められるところ、請求人らが負担した建物収去費用の根拠となった見積書については、その算定根拠が不正確ないし不明なものがあり、経済合理性を欠くものであるが、請求人らが別途依頼していた他の業者が作成した見積書は、経済合理性にかなうものと認められるから、当該他の業者が作成した見積書の金額をもって、債務控除の対象となる金額とするのが相当であるとしたものである。
要旨
被相続人の生前に解除された借地契約の約定により請求人らが負うこととなった建物収去及び土地明渡しに係る債務(本件債務)について、原処分庁は、土地明渡しに係る債務については確実な債務であるが、当該土地明渡しに要する金額は零円であり、建物収去に係る債務については建物を収去することなく現状有姿で引き渡すことも選択可能であったから、確実な債務ではなく、いずれも相続税の課税価格の計算上控除すべき債務には当たらないと主張し、請求人らは、本件債務は相続開始時に現に存し、確実と認められる債務であるから、控除すべき債務であると主張する。しかしながら、本件債務は、相続開始日に現に存し、その履行が確実な債務であったと認められるのであり、原処分庁の主張するところは、確実な債務の履行手段であって、これは相続開始後の事情というほかないから、相続税法第22条《評価の原則》が「控除すべき債務の金額は、その時の現況による」旨規定している趣旨に照らし、採用できない。なお、請求人らが負担した建物収去費用の根拠となった見積書については、算定根拠が不正確ないし不明なものがあり、経済合理性を欠く内容であるから、当該見積書を算定根拠とした金額を控除すべき債務の金額としては採用できず、他方、請求人らが別途見積りをしていた他の業者による見積書は詳細かつ正確なものであり、経済合理性にかなうものと認められるから、当該見積書の見積金額をもって控除すべき債務の金額とするのが相当であり、原処分については、その一部を取り消すべきである。
参照条文等
参考判決・裁決
最高裁昭和49年9月20日第三小法廷判決(民集28巻6号1178頁)
ポイント
本事例は、被相続人が生前に解除した建築請負契約に基づく約定違約金は相続開始日に現に存し、その履行を免れないものであり、原処分庁が指摘する審査請求人らも支払を拒否して係争中であったことは、請求人が他の事由により請負業者に対して損害賠償を求めたものであって、そのことをもって当該約定違約金の支払義務が消滅等するものではないから、履行が確実な債務であったと認めるのが相当であると判断したものである。
要旨
原処分庁は、被相続人が生前に解除した建築工事請負契約に基づく約定違約金等について、被相続人に支払う意思はなく、相続人である審査請求人も支払を拒否して係争中であったことをもって、確実な債務ではない旨主張する。
しかしながら、相続税の課税価格から控除する債務は、相続開始当時の現況に照らし、債務が現に存するとともに、その履行が確実と認められるものをいうと解されるところ、当該約定違約金等は、相続開始日に現に存し、その履行を免れないものであるから、履行が確実な債務であったと認めるのが相当であり、債務者の履行の意思によってその確実性の判断を異にするものとは解されず、また、原処分庁が指摘する「係争」は、審査請求人が請負者側の説明義務違反等を理由として損害賠償を求めたものであり、そのことをもって当該約定違約金等の支払義務が消滅したり、履行の確実性が失われたりするものではないから、原処分庁の主張はいずれも採用できず、当該約定違約金等は相続税の課税価格から控除する債務に当たる。
参照条文等
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